社宅は、経費として節税になるほか、要件を満たすことで従業員の税負担も減らせる福利厚生としても機能します。社宅を経費にする際のポイントや、社宅のメリット、従業員と役員の扱いの違いなど注意点について解説。
目次
社宅とは
社宅とは、会社が自社の従業員に使用させる目的で用意した住宅のことです。
社宅は大きく「借り上げ社宅」と「社有社宅」の2つに分けられます。
「借り上げ社宅」は、会社が賃借した住宅を従業員に使用させる形を指します。対して「社有社宅」は、会社が保有する住宅を従業員に使用させます。
社宅は、基本的に従業員から賃料を受け取って入居させることが一般的です。ただし、賃料は近辺の家賃相場より安い場合が多く、従業員にとっては福利厚生としてはたらきます。
また会社側にとっても、後述するように社宅を利用することで節税になるというメリットがあります。効果的に利用すれば、社宅は会社も従業員もメリットを得られる仕組みです。
社宅を経費にする際のポイント
社宅を経費にする際のポイントを解説します。
社宅に関係する費用は、会社の経費にできます。
社宅での支出を経費にすることで会社の利益が圧縮され、税金を安くできるので、効果的に利用すれば会社にとってメリットがあります。
ただし、賃貸料相当額の50パーセント以上の家賃を従業員から徴収していることがポイント。
従業員から賃貸料相当額の50パーセントより少ない家賃を徴収している場合は、賃貸料相当額と実際に従業員が払っている家賃の差額が従業員に対する給与として課税されるので注意が必要です。
賃貸料相当額は以下の計算式1~3の合計金額で算出されます。
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント
- 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント
出典元:国税庁「使用人に社宅や寮などを貸したとき」
社宅と住宅手当の違い
社宅と住宅手当の主な違いは、社宅では住居そのものを従業員に貸与するのに対し、住宅手当は従業員に金銭を支給する点です。従業員に金銭として支給するため、住宅手当は給与として扱われることになり、所得税の課税対象となります。
それによって従業員の支払う税金が増えます。
一方で社宅を利用すると、賃貸料相当額の50パーセント以上を従業員から家賃として徴収していれば、賃貸料相当額と家賃の差額は福利厚生費となり課税の対象となりません。
社宅を従業員に相場より安く利用させるという点では住宅手当を支給しているのと実質同じですが、課税対象になるかならないかという違いがあります。
社宅を利用するメリット
社宅を利用するメリットを解説します。主なメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
- 節税になる。
- 福利厚生が充実する。
- 借り上げ社宅なら管理負担も少ない。
会社側だけでなく、従業員にとってもメリットがあるので、社宅の制度を利用する際の参考にしてください。
節税になる
社宅を利用する会社側のメリットとしては、節税になる点が挙げられます。
社宅制度によって支出した賃貸料相当額は、損金として費用計上できるので、会社の利益が減るため節税になります。
社宅を法人が購入した場合、減価償却費を計上できます。
減価償却費は、固定資産を取得した際、その取得にかかった費用を耐用年数に応じて配分し費用計上するものです。
減価償却費も経費であり、節税になります。
また、物件を購入する際に購入資金を借入れていれば、その利子も損金として費用に計上できます。
借り上げ社宅の場合、会社が物件を借りるので会社側に賃料が発生します。その賃料は「地代家賃」などの費用で計上するため、こちらも経費です。
社宅に関する支出は費用計上できるものも多いので、有効活用しましょう。
ただし、費用にできるのは業務を運営するうえで直接的に必要なものに限られるので注意してください。
福利厚生が充実する
福利厚生が充実させられることも、社宅のメリットです。
基本的に社宅は、周辺の家賃相場よりも安い金額で従業員が利用できます。
相場よりも安くなる分は家賃補助となるため、従業員にとって社宅は福利厚生です。
同じく住居の福利厚生の一つとして挙げられる住宅手当と比べると、社宅は要件を満たすことで従業員が支払う所得税などを減らせます。
その点で社宅は優れた福利厚生です。社宅を利用すると会社の福利厚生を充実させられます。
福利厚生を充実させることは、従業員だけでなく会社側にもメリットがあります。
なぜなら、福利厚生が充実していることは会社のアピールになるからです。
就職先を探している人は、より良い条件の会社で働くことを望んでいます。そういう人たちにとって、福利厚生が充実している会社は魅力的に映るでしょう。
社宅をはじめとする福利厚生を充実させることは、優秀な人材を集めるのに有効であり、会社側にとっても大きなメリットです。
借り上げ社宅なら管理負担も少ない
借り上げ社宅であれば、管理負担が少なくて済むこともメリットです。
会社が物件を保有する形態である社有社宅だと、物件は会社が管理する必要があります。
清掃や修繕、老朽化への対策など、物件を保有していることで発生する負担は数多くあり、一つ一つは小さいものでも数が増えると大きな負担です。
もちろん、管理会社に管理を委託すれば、管理業務の負担を軽くできます。しかし、管理会社に委託する場合、適切な管理会社を選ぶという新たな負担が発生します。
管理会社に委託していても、物件の修繕や改良などの大きな工事が必要になれば、それを審査・決定する業務が発生するかもしれません。
その点借り上げ社宅であれば、物件の責任はオーナーに帰属するため、借りている会社側は基本的にその責任を負わなくて済みます。
管理負担が少ないのは、とくに借り上げ社宅においてメリットといえるでしょう。
社宅を貸し出す場合の注意点
社宅を貸し出す場合には注意点があります。
出典元:国税庁「役員に社宅などを貸したとき」
それは、貸し出す相手が従業員か役員かによって、賃貸料相当額の計算方法が異なるからです。
また、役員が社宅を借りる場合、役員が会社に払う家賃が賃貸料相当額より少しでも低ければ、家賃と賃貸料相当額の差額が課税対象となります。
従業員の場合は、賃貸料相当額の50パーセント以上を家賃として支払えば差額は課税対象となりません。
従業員と役員では計算方法や課税の範囲が異なる点に注意しましょう。
従業員の場合
従業員に社宅を貸し出す場合、賃貸料相当額の計算方法は上記で解説した通りです。
賃貸料相当額の50パーセント以上の家賃を従業員が支払っていれば、賃貸料相当額と家賃の差額は課税の対象となりません。
ここで注意が必要なのは、支払われている家賃が賃貸料相当額の50パーセント以上か未満かによって仕訳方法が異なる点です。
従業員から受け取る家賃と、賃貸料相当額の差額は会社側の支出ですが、使用する勘定科目がそれぞれ異なります。
従業員が賃貸料相当額の50パーセント以上を会社に払っている場合、会社が負担する差額は「福利厚生費」として仕訳を切ります。
「福利厚生費」は課税されないため、従業員の負担を軽減したいならば50パーセント以上の家賃を従業員から受け取るとよいでしょう。
一方、従業員から受け取る家賃が賃貸料相当額の50パーセント未満の場合、会社が負担する差額は「給与」の勘定科目を使用します。
「給与」は課税対象です。そのため従業員の負担が増えます。
ただし、守衛や看護師のような、勤務先から遠いところに住むのが難しい従業員の場合、社宅を無償で貸しても課税されない可能性があります。
役員の場合
社宅を役員に貸し出す場合、社宅の規模や種類によって賃貸料相当額の算出方法が異なります。社宅の規模や種類は以下の3種類です。
- 小規模な住宅
- 小規模な住宅に該当しない住宅
- 豪華社宅
小規模な住宅の定義とは、「法定耐用年数が30年以下の建物の場合は床面積が132平方メートル以下である住宅、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には床面積が99平方メートル以下(区分所有の建物は共用部分の床面積をあん分し、専用部分の床面積に加えたところで判定します。)である住宅」です。
出典元:役員に社宅などを貸したとき
役員に対して小規模な住宅を貸す場合、賃貸料相当額は従業員の場合と同じ計算方法によって賃貸料相当額を算出します。
小規模な住宅以外の住宅については、さらに「自社所有の社宅である場合」と「ほかから借り受けた住宅などを貸与する場合」の2つに分かれます。
以下がそれぞれの賃貸料相当額の算出方法です。【自社所有の社宅(社有社宅)の場合】
2つの式の合計額に12分の1をかけると賃貸料相当額になります。
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12パーセント
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6パーセント
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合、1つ目の式の12パーセントの代わりに10パーセントをかけます。
【ほかから借り受けた住宅(借り上げ社宅)の場合】
会社が物件の家主に支払う家賃の50パーセントと、上記で算出した賃貸料相当額のうち、多いほうの金額が賃貸料相当額になります。
また、社会通念上社宅と認められないいわゆる豪華社宅の場合は特定の計算式はなく、通常支払うべき使用料に相当する金額が賃貸料相当額になります。
豪華社宅かどうかは、「床面積が240平方メートルを超える物件のうち、取得価額や支払賃貸料の額、内外装の状況といった各種の要素を総合的に勘案」して決められます。
出典元:役員に社宅などを貸したとき
また、プールなど一般に貸されている住宅にはない設備、あるいは役員個人の嗜好を著しく反映した設備などがあると、床面積が240平方メートル以下でも豪華社宅扱いです。
社宅のほうが住宅手当より社員の手取りは増える
住居に関する福利厚生という点では、社宅のほうが住宅手当より社員の手取りは増えます。
住宅手当は従業員に金銭を支給することで、従業員の家賃などをサポートするものです。
金銭で支払われるため、給料が増えるので、従業員にとっては一見うれしく感じられるかもしれません。
しかし、給料が増えると、従業員が負担する所得税や住民税なども増えてしまいます。これらの税金は給与の金額に応じて課税されるためです。
また税金だけでなく、社会保険料も給与に応じて金額が決まるので、給与が増えれば社会保険料の負担も大きくなります。
この点社宅を利用すれば、従業員に支給される給与自体は減ります。
しかし、課税や社会保険料の対象となる分も減るので、最終的に従業員の手元に残る手取りの給料は増えることになるのです。
つまり、社宅は会社にとっても従業員にとってもメリットがあります。
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そのため、経理の仕事は特に、常に全体像を捉えながら進めていかなければなりません。
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まとめ
社宅を経費にする際のポイントやメリットについて解説しました。
社宅は会社が保有、もしくは借りている住宅を従業員に貸与する福利厚生の一つです。
従業員は、相場より安く住宅を利用できるというメリットがあります。
金銭を支給する住宅手当では、給与が増える代わりに所得税などの負担も増えてしまいます。
その点社宅は、賃貸料相当額の50パーセント以上の家賃を徴収しているという要件を満たせば、課税対象となる給与を減らすことで、従業員が払う税金などの負担を減らせるのです。
また、社宅はうまく利用することで節税になるだけでなく、充実した福利厚生をアピールすることで優秀な人材を集めやすくなるなど、会社側にとってもメリットがあります。
社宅を有効活用して、より良い事業運営を目指しましょう。