資金繰り表といえば、会社の資金情報を把握できる表というイメージがあるでしょう。一方で、収支予定を把握できたり、経営戦略の判断材料にもなったりします。
この記事では、資金繰り表を作成する目的や必要なものを紹介したのち、注意点なども解説します。資金繰り表について理解を深めたいという人はぜひこの記事をご覧ください。
目次
資金繰り表とは?
資金繰り表とは、会社の資金がどれだけあるのか、現金の収入や支出を記録し、現状把握できるような表のことです。将来のお金の出入りを予想する役割もあります。
資金繰り表には決まったフォームはありませんが、基本的には以下の5つの区分に分かれています。
- 前月繰越
- 収入
- 支出
- 差引過不足
- 次月繰越
詳しくは資金繰り表の見方の章で解説します。
会社を経営している人は、資金繰り表を作って常に現金の収支状況を記載して、把握しておかなければ、黒字倒産になりかねません。会社の資金の状態を判断するためにも、資金繰り表は作っておくことが望ましいです。
また、銀行の融資を受ける際には、資金繰り表の提出が必要なため、作っておくとよいでしょう。
資金繰り表を作成する目的
資金繰り表を作成する目的は、会社の現金の流れを明確に把握することです。なぜなら利益が出ていても、お金がないという状況が発生する可能性があるからです。
会社経営における資金繰り表を作成する目的とは、会社の資金の流れを表で管理することをいいます。もし、資金繰り表で管理していないと、従業員へ給与の支払いや、仕入れの支払いもできなくなる場合があるでしょう。
また、資金管理ができていないことが原因で会社が倒産してしまうことも少なくありません。資金不足になりそうな現状を管理できると、資金調達を考えたり、追加借り入れをしたりするなどの対策もできるでしょう。
このように、会社にとって資金繰り表は経営するにあたって重要な役割を持っています。
資金繰り表には2つの形式がある「実績資金繰り表」と「予定資金繰り表」
資金繰り表には「実績」資金繰り表と「予定」資金繰り表の2つの形式があります。
単に、資金繰り表というときは「予定資金繰り表」のことを指すことが多いでしょう。
実績資金繰り表とは、会社の過去の営業実績をもとに、実際に現金がどのように動いていたかをまとめた表のことです。過去の仕訳のデータをもとに作り、資金繰りの問題点や課題点を浮かび上がらせるために用いられます。
実際の現金の流れは、貸借対照表や損益計算書だけで把握することは難しいため、実績資金繰り表を作ることで、お金の動きを読み取ることができます。
予定資金繰り表とは、今後、会社の資金の動きを予測するために作られる表です。買掛金の回収や、借入金の返済状況などを明確に表すために用いられます。
また、銀行などの金融機関に提出する表のことを指します。
キャッシュフロー計算書とは違う?
よく、資金繰り表と似たものに、キャッシュフロー計算書があります。
キャッシュフロー計算書とは、会計期間の期首にいくら現金があって、どのように使われ(増減し)、期末の時点でいくら現金が残っているのか確認ができる書類のことです。
会社の一定期間における資金状況をもとに作成されます。
一方で、資金繰り表とは、将来のお金の出入りを予測する表です。キャッシュフロー計算書は「過去」、資金繰り表は「将来」のお金の動きをまとめたものという違いがあります。
このように、対象となる期間、重視する点も異なるでしょう。
資金繰り表を作成するメリット
資金繰り表を作成するメリットは以下の3つがあります。
- 資金不足の原因を特定できる
- 収支予定を把握できる
- 経営戦略の判断材料にできる
会社を経営するためにとても重要です。メリットを一つひとつ詳しく解説します。
資金不足の原因を特定できる
通常、会社は資金不足にならないように、計画を立てて資金を回すことが望ましいでしょう。しかし、機械が壊れてしまって、購入しなければならないなど、突発的な支出も少なくないため、資金がなくなってしまうこともあります。
資金繰り表を作成することで、なぜ資金が減ってしまったのか、原因を突き止めることが可能です。
たとえば、帳簿上では売上は増加しているが、資金回収が遅れたりして、手元に資金がない状態になることもあります。原因が判明すれば、回収のために具体的にどうすればいいのか手段を考えることができます。
このように、資金不足になる前に原因を特定できることで、銀行から融資をしてもらうなど、事前の対応も可能になります。
収支予定を把握できる
資金繰り表を作成することで、会社の収支予定を把握できるメリットがあります。
たとえば、まだ入金されていない売掛金や、これから支払いを行う予定の買掛金などを把握できることで、将来の資金不足や余剰を事前に確認できます。
また、資金ショート(運転資金が足りなくなること)を予想できれば、以下のような対処法を取ることができるでしょう。
- 売掛金を早めに回収する
- 買掛金の支払いを遅らせる
- 融資を受ける
- 資産を売却する
- 手形割引を行い、すぐに現金化する
このように、資金繰り表を作成して収支予定を把握することで、資金ショートなどの万が一のリスクに備えることができます。常に、十分な資金を手元に蓄えておくことを意識しながらお金を回すようにしましょう。
経営戦略の判断材料にできる
会社を経営するうえで必要な資金繰り表ですが、経営戦略の判断材料にもなります。
たとえば、資金繰り表で計画したとおりに、事業が進まないこともあるでしょう。その場合、なぜうまく資金繰りできなかったのか、表を確認すると問題点が見つけられます。
事業の途中で問題点が見つかれば、修正も可能です。
もし、資金繰り表を作っていなければ、資金の流れが可視化できず、どこで資金が滞っているのか把握できず、経営がうまく回らなくなるでしょう。その結果、資金不足で倒産に追い込まれることも少なくありません。
そうならないためにも、資金繰り表を経営方針や事業内容の変更の判断材料として活用し、戦略を練ることで、安定した経営ができるようになるでしょう。
資金繰り表を作成するために必要なもの
資金繰り表を作成するためには、細かな計算をしなければなりません。実際に入力する数字が分かる書類を集めることから始めます。以下の書類を用意する必要があります。
- 月次試算表
- 現金出納帳
- 預金出納帳
この3つをそろえましょう。ほかにも、決算報告書や手形帳などがあると、さらに具体的に作成できます。実際に事業をしながら修正する点が出てくることになっても、資金繰り表があるのとないのとでは、会社運営に大きく関わります。そのため、資金繰り表を作成する意味はあるといえます。
月次試算表
月次試算表とは、月にどれだけ資産や負債、収益、費用が動いたのか把握できる表です。最新の経営状況や財政状況も把握できます。
毎月、経理が会計ソフトやExcelなどを使い、月次試算表を作成することが多いでしょう。1か月ごとに数字を締めて確認し、経営状況の把握ができます。
月次試算表を作ることで、以下のことが分かります。
- 現預金残高
- 売上の増減
- 経費の増減
- 債権・債務の残高
- 税金がいくらかかるのかの予測
また、融資を受ける際にも、月次試算表は必要となるため、毎月作成して、いつでも出せるように整えておくとよいでしょう。
現金出納帳
現金出納帳とは、会計の現金を管理したり、入出金を記載したりするための帳簿です。現金で取引があった場合、内容を記録します。
現在は、不正や現金のやり取りを減らすためにキャッシュレスや、クレジットカード決済が主流になってきています。しかし、現金での取引も完全に無くなったわけではないため、きちんと現金のやり取りを記帳する必要があります。
現金出納帳に記載する項目は以下のとおりです。
- 日付
- 勘定科目
- 摘要欄に収支の具体的な内容を記載
- 入出金額
- 残高
現金出納帳は、お金の流れの可視化や不正防止にも役立ちます。補助帳簿であるため、企業によっては記帳してないこともあります。
資金繰り表を作る際に、収入欄へ現金出納帳から現金売上売掛金回収分などの金額を抽出して記載します。
預金出納帳
預金出納帳とは、銀行の預金の管理をするために記載する帳簿です。会社の銀行口座に出入金の取引があったときに内容を記録します。
最近では、ネットバンキングの利用によって、銀行口座を使う場面が多くなり、預金出納帳を活用する機会が増えています。
また、預金出納帳は銀行口座ごとに別々に管理するもので、月末に帳簿と通帳の残高確認を行い、差異の有無を把握します。毎月管理することで、口座の残高確認ができるでしょう。
預金出納帳に記載する項目は以下のとおりです。
- 日付
- 勘定科目
- 摘要欄に入出金の具体的な内容を記載
- 入出金額
- 残高
現金出納帳と同じく、買掛金の支払いや、公共料金の振り込みを行ったときの増減額を抽出して資金繰り表を作成します。
資金繰り表の見方
現金出納帳や預金出納帳も見ながら資金繰り表を作成しますが、会社によってはさまざまな様式で作成されます。資金繰り表に記載する項目も、さまざまです。
資金繰り表の構成を理解できれば、ポイントを押さえた資金繰り表の見方ができるようになります。
資金繰りの構成は3つにわけられます。
- 経常収支
- 経常外収支
- 財務収支
経常収支とは、本業での売上や費用など、営業に関する取引の収支を示したものです。
営業収支とも呼ばれます。
経常外収支とは、本業以外の収支のことで、株の配当金や、補助金などで得た収入などです。財務収支とは、金融機関からの融資による借入金の収入や返済、手形割引などが含まれます。
経常収支、経常外収支、財務収支にも細かい項目の見方があるため、以下で項目について説明します。
資金繰り表の項目について
資金繰り表の見本です。
資料:日本政策金融公庫「経営計画策定に役立つ各種資料等」より
この資金繰り表で注目してほしいポイントは次の3つです。
- 経常収支の差引過不足
- 財務収支の差引過不足
- 翌月繰越
1の経常収支の差引過不足では、常にプラスになっていることが望ましいでしょう。プラスだと、本業の利益が多いことを表します。
しかし、経常収支がマイナスの場合も少なくないため、資金繰りの問題があるのか、事業に問題があるのか、確認する必要があるでしょう。
2の財務収支の差引過不足では、仮に値がマイナスになっている場合は返済額の方が借入額より大きいことを示しています。この場合は、マイナス額が計上収支を上回っていないか確認しましょう。
翌月繰越の金額がマイナスになっていると、資金不足を意味します。このままマイナスだと資金が回らないため、再度見直しが必要だと分かります。
このように、資金繰り表の見方が分かれば、どこに問題があるか明らかになるため、経営戦略に活かせるでしょう。
資金繰り表に関する注意点
これまで資金繰り表について説明してきましたが、次のような注意点があります。
まず、資金繰り表は税込みで記載しましょう。その理由は、実際のお金の動きと一致させるためです。決算書では税抜きで記載するため、間違えないように注意してください。
また、減価償却費は会計上では費用です。しかし、減価償却により現金が減ることはないため、資金繰り表には反映しません。
とくに重要な2つの注意点については詳しく解説します。
- 定期預金や定期積金、有価証券を除くことが多い
- 月次の資金繰り表では月の途中の資金不足が分からない
定期預金や定期積金、有価証券を除くことが多い
資金繰り表の作成の際、現預金の残高には流動性預金に当たるものを記載します。
流動性預金は、現金や普通預金、当座預金をいいます。
定期預金や定期積金は流動性預金には含まれません。定期預金に預けると、そのお金は基本的に使えないものとされるためです。
また、金融機関との調整や口座の解約手続きが必要となることがあるため、資金繰り表からは除かれることがあります。
有価証券は、市場の状況によって価値が変動し、現金に変えるのに時間がかかります。すぐに現金化できないものは、資金としてみなされないことがあります。したがって、資金繰り表の「資金」には有価証券は含まれないことが多いでしょう。
具体的な取り扱いは企業の会計方針を確認してください。
月次の資金繰り表では月の途中の資金不足が分からない
資金繰り表は通常、月次や四半期、年次の始めから終わりまでの間の現金の変動を追うものです。したがって、月次の資金繰り表では期間の途中での資金の残高や過不足が分かりません。
たとえば、売掛金の回収が予定よりも遅くなり、収入が減少することがあります。その場合、資金不足を招き、給与や買掛金の支払いができなくなることが考えられます。
このように、月の途中の入出金による現金の過不足は把握できないため、月次の資金繰り表では資金不足になっているかどうか分かりません。実際には期中に資金が足りない状況になりうることを理解しておくとよいでしょう。
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その結果「何のためにこの業務をしているんだろう」とモチベーションの低下に繋がることもあります。
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こうすることで、自社が取引先・借入先に対して、適切に支払いができるのか、あるいは取引先・貸付先から適切に入金が行われるのかを、仕訳と同時に予測できます。
極端な例ですが、こうした「意識的」な仕訳を繰り返すことで、会社の経営状況が見えてきて、黒字倒産を未然に防ぐといったことも。
また、全体像を把握できていると、業務の優先順位を自ずとつけられるようになるので、仕事のスピードがぐっとあがっていきます。
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まとめ
この記事では、資金繰り表の目的、作成するために必要なもの、注意点を紹介しました。
資金不足の原因を特定できたり、収支予定を把握したり、経営戦略の判断基準にも用いられると分かったのではないでしょうか。
資金繰り表を作成するためには、月次試算表、現預金の出納帳が必要であり、お金の流れを把握するための重要な書類となります。注意点として、定期預金や定期積金、有価証券は含めないことが多いため、気を付けながら作成するとよいでしょう。
会社のお金の流れを可視化することで、経営を安定に導いたり、問題点を見つけ出せたりできると、対策も立てることができます。
このように、売上や利益、支出などのお金の流れを把握することで資金を不足させずに会社を経営できるため、資金繰り表を作成して経営戦略に活かしてください。