企業活動のなかでも登場頻度と重要度の高い書類が領収書です。領収書の発行は法で義務付けられていますが、再発行は義務ではないことをご存じでしょうか。身近な印象のある領収書ですが、詳細な規則は知らない方も多いかもしれません。
本記事では、領収書の基礎知識や発行する際の注意点、現金以外で支払いが行われた場合の処理、再発行の義務についてなどをご紹介します。
また、受領側の視点から再発行の依頼に応じてもらえない場合の対処方法についてもお伝えします。紛失してしまった場合に困らないよう、知識を蓄えておきましょう。
目次
領収書の基礎知識
領収書は金銭の支払いが発生したことを証明する書類です。金銭を受け取った側が発行し、支払った側が受領します。
領収書があれば、支払いの事実を証明できるため、同じ内容の請求をされてしまうような事態を避けられます。取引相手の取引の内容に確認したいことが発生した場合にも、領収書を確認すればすぐに取引内容が照合可能です。
領収書は税務調査の際に経費の内容を証明するものとしても扱われます。仕入税額の控除を受ける場合も、必要項目の記載された領収書があれば申請の根拠になります。
社内の健全化にも領収書は役立ちます。経費申請に領収書のような偽造・改ざんの難しい書類を必須とすれば、不正に経費を受け取ろうとする企みを予防する効果が期待できるでしょう。
領収書は、法的に重要な書類であるだけではなく、業務の効率化や健全化を図るうえでも重要な書類です。
領収書に記載しなくてはいけない項目
領収書自体には規定の書式のようなものは存在しません。しかし、請求書の代わりとして仕入税額の控除を受けるための証明書類として領収書を扱う場合には、以下の項目が記載されている必要があります。
- 領収書発行者の名称
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 支払いが行われた年月日
- 取引の内容(軽減税率対象品目の場合はその旨も記載)
- 税率ごとに合計した取引金額(税抜価格または税込価格)
- 適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 領収書受領者の名称
上記項目に漏れがあると、仕入税額の控除が受けられません。取引相手とのトラブルや不要な確認作業などの手間を避けるためにも、発行時に入念な確認を行いましょう。
領収書の金額が5万円以上の場合は、収入印紙を貼付ける必要があります。収入印紙の金額は領収書の金額によって変わっていくため、金額を間違わないように注意してください。
領収書の発行は法律により義務化されている
領収書の発行義務について考えるうえで重要になるのが「民法486条(受取証書の交付請求)」です。
民法第486条には「弁済した者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる」とあります。
出典:e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp)
受取証書とは領収書のことです。つまり支払いが行われるのと同時に、支払った側は領収書の発行を要求でき、相手は領収書を発行しなければならないということになります。ただし、領収書の発行義務が生じるのはあくまで支払い側が領収書の発行を求めた場合に限られ、特に領収書の発行が求められなければ、販売側に領収書の発行義務は生じません。
実務上では「領収書の発行は支払い時に行う」という原則を理解しておけばいいでしょう。後日になって領収書の発行を依頼される場合も考えられますが、あくまでイレギュラーな対応です。
現金以外で支払う場合の領収書の発行義務について
原則として支払いを受ける側には相手の求めに応じて領収書を発行する義務があります。しかし、現金以外の支払い方法が選ばれた場合、発行義務が生じない場合があることをご存じでしょうか。
現金以外で支払われた場合の発行義務の有無に関して「銀行振込みの場合」「クレジットカード払いの場合」の2つのケースにわけて解説いたします。
銀行振込みの場合
銀行振込みで支払いが行われた場合、領収書の発行義務が生じます。
支払い側に要求された場合は、領収書を発行しなければなりません。銀行振込みを選択している場合相手はその場にいないため、郵送か直接取りに来てもらうといった方法で領収書を渡す必要があります。
ただし、支払った側は振込みの際に発行される振込明細書があれば、税務上提出する書類としては十分です。本来不要なはずの領収書の発行と受け渡しを行わずに済むよう、事前に振込明細書が領収書の代わりとなることを取引相手に伝えておくといいかもしれません。
クレジットカード払いの場合
クレジットカードでの支払いが選択された場合、領収書の発行義務はありません。これはクレジットカードでの支払いの場合、支払う側と受け取る側の間にクレジット会社が入り、決済時点では金銭を受け取っていないからです。
領収書を発行できはしますが、税務調査の際に正式な領収書としては認められない可能性が高いでしょう。クレジットカードでの支払いに領収書を発行するのであれば、クレジットカード決済であることが分かるような印をつけておいてください。
クレジットカードでの支払いの場合、基本的にレシートや利用控えが領収書の代わりとして用いられます。
領収書を発行する際の注意点
領収書の発行に際しては、ミスのないよう細心の注意を払う必要があります。再発行や訂正には、発行者と受領者双方に手間と時間がかかってしまうからです。
領収書の発行時にとくに気をつけたいポイントとして「正しい形式で記載する」「クレジットカード決済の場合は明記する」「書き間違えた場合には再発行する」「領収書の控えを保管しておく」の4点をご紹介します。
正しい形式で記載する
領収書は正しい形式で記載するよう心がけましょう。どの項目にも共通していえるのは、省略せずに改ざんの難しい形式で記載するといいということです。
日付は平成をH、令和をRのように元号をアルファベットで表したり、西暦を下2桁のみで記載したりするのはやめましょう。西暦・和暦はどちらを用いても構いませんが、省略せずに記載してください。
宛名に関しても「上様」表記はできるだけ避け、正式な会社名か個人名を記載してください。但し書きも「品代」は可能な限り使わずに、具体的な商品名を記載するように心がけましょう。
クレジットカード決済の場合は明記する
クレジットカード決済で支払われた場合は、領収書のどこかにクレジットカード決済であることが分かるよう明記しましょう。
そもそもクレジットカードで支払われた場合、領収書を発行する義務はありません。通常の取引と違い、間にクレジット会社が挟まるため、2者間の金銭のやりとりとはならないからです。領収書の発行は可能ですが、税務上の効果は認められない恐れがあります。
そういった前提を踏まえたうえで、領収書の発行を要求された場合は、通常の領収書との見分けがつくように工夫する必要があります。わかりやすい場所にクレジットカード払いであることを記載して誰の目にも分かるようにしてください。
書き間違えた場合には再発行する
領収書を書き間違えてしまった場合は、再発行を行いましょう。
再発行の際、元の領収書は発行者側の責任で破棄せず保管しなければなりません。内容に不備のあった領収書も、通常の領収書と同じく税務上は必要な書類です。通常の領収書と混同しないよう、破棄した領収書であることが分かる印をつけておく必要があります。
再発行した領収書についても、再発行した領収書であることが分かるような印を空いたスペースに記入してください。社内規則で領収書の再発行を行わない方針の企業もありますが、発行者側のミスが原因の場合は、基本的に再発行での対応を検討してください。
領収書の控えを保管しておく
領収書の控えは保管することが法律で義務付けられています。保管期間は諸条件で変わってきますが、基本的には7年であることがほとんどです。
領収書の控えを保管する際は、取引相手や取引の日付などの項目で仕分けしておきましょう。後日領収書の内容の確認を求められた場合でも、すぐに探し出して対応できます。
保管スペースや管理コストの削減を図りたいなら、領収書の電子化をおすすめします。電子領収書であれば保管にスペースは不要なうえ、特定の領収書が必要になった場合もすぐに検索して探し出すことができます。
電子領収書は、電子帳簿保存法に従って運用してください。
領収書に再発行の義務はない
領収書の発行は義務ですが、再発行は義務ではありません。取引相手から再発行を要求された場合でも、発行側は拒否できます。同じ内容の領収書を複数発行することは、不正行為につながる恐れがあるからです。
企業によっては、社内で領収書の再発行を禁じているところもあります。もし、社内規則で再発行が不可であるなら、領収書を発行する際にその旨を取引相手に伝えておくとトラブルの予防につながるかもしれません。
再発行以外の対処法として、紛失以外であれば訂正ができます。訂正したい部分に二重線を引き、印鑑を押して正しい内容を記載すれば訂正は完了です。
書き損じなど発行者側に再発行の原因がある場合は例外です。可能な限り再発行を行い、再発行の領収書には再発行であることが分かる印を書き入れましょう。書き損じた領収書は、破棄せず保管してください。
領収書の再発行に応じてもらえない場合の対応方法
領収書の再発行は義務ではないため、受領側が要求しても断られてしまう場合があります。そういったときには、別の手段で領収書の役割を賄わなくてはなりません。
領収書が再発行してもらえなかった場合の対処方法として「①レシートで代用する」「②利用明細で代用する」「③出金伝票で代用する」の3点をご紹介します。
①レシートで代用する
レシートでも領収書を代用できる場合があります。レシートには発行者の名称や、取引内容(商品名)、日付、金額などの領収書と似通った内容が記載されているからです。
一方で、領収書とレシートには宛名の有無という大きな違いがあります。法律上、書類が経費精算の際に証拠として認められるには、宛名が必要です。この点に注目すれば、レシートは領収書の代わりにならないといえるでしょう。
しかし、消費税法では一部の事業者から受け取った領収書については宛名なしでも問題ないとされています。この場合は、レシートでも領収書の代用となります。一部の事業者は、以下の通りです。
- 小売業
- 飲食業
- 写真に関する業
- 旅行に関する事業
- バス、鉄道、航空会社などの旅客運送業
- 駐車場業
②利用明細で代用する
クレジットカードでの支払いを行った場合、利用明細で領収書の代用が可能です。利用明細には発行者(クレジット会社)の名称、受領者の名称、取引(購入商品)の内容、金額、利用日が記載されており、領収書の内容とほぼ同一です。
そのため、通販サイトでは、あらかじめクレジット会社から発行された利用明細を領収書の代わりとして扱うよう記載されている場合もあります。
クレジットカードで支払った場合でも、領収書の発行は可能です。しかし、実際に金銭のやりとりを行ったのはあくまでクレジット会社相手です。再発行を断られた場合でも、利用明細で支払いの証明をしたほうがむしろ自然でしょう。
③出金伝票で代用する
出金伝票で領収書の代用ができる場合があります。出金伝票には日付、支払った相手、勘定科目、摘要、金額、記入者の名前を記載します。内容としては、ほぼ領収書と変わらないといえるでしょう。
出金伝票と領収書の大きな違いは、出金伝票が支払った側自身で作成するものだということです。そのため、支払いを受け取った側が発行する領収書と比べると、取引の事実を証明する書類としての効力が弱いといえます。
しかし、口座の履歴や電子マネーの支払い履歴、会議の議事録など別途支払いの事実を補強するものがあれば、出金伝票でも領収書の代用となるかもしれません。
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まとめ
領収書は、金銭の支払いが発生したことを証明する書類です。金銭を受け取った側が発行し、支払った側が受領します。基本的に支払いを受け取る側は、金銭が支払われたタイミングで領収書を発行しなければなりません。
クレジットカードで支払われた場合、領収書を発行する義務は発生しません。一方、銀行振込みの場合は、要求されれば領収書を発行する必要があります。これはクレジットカードで支払った場合、支払い側のやりとりする対象がクレジット会社へと変わるためです。
領収書の発行を求められた場合、支払いを受けた側は領収書の発行義務が生じますが、再発行は義務ではありません。再発行を断られた場合は、レシートや利用明細、出金伝票などで代用してください。