国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)とは、グローバルな会計基準として多くの国で採用されているもので、ロンドンを拠点とする国際会計基準審議会(IASB)が設定している会計基準です。
この基準は、企業の財務情報の透明性を高め、投資家やステイクホルダーに対して信頼性の高い情報を提供することを目的としています。IFRSの導入にはメリットだけでなく、デメリットや様々な影響も伴います。
本記事では、IFRSの概要から、導入する際のメリット・デメリット、そしてそれに伴う影響について詳しく解説していきます。グローバル化が進む現代において、この基準についての理解は、企業経営や投資判断において非常に重要となってきています。
目次
国際財務報告基準(IFRS)とは
国際財務報告基準は、国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board: IASB)によって策定される会計基準のことをいいます。日本では、アイファース、もしくはイファースと呼ばれています。
IFRSの目的は、世界中の企業が同じ会計基準に基づいて財務情報を報告することによって、世界中の投資家が企業の財政状態や経営成績などを比較しやすくすることを目指しています。
日本取引所グループが運営している株式市場に上場している企業のうち、2023年6月末現在、IFRS適用済会社数は254社あり、今後、IFRSの適用を決定しているIFRS適用決定会社数も14社と、日本でも268社がIFRSに基づいて会計情報の作成が行われています。
参考:IFRS(国際財務報告基準)への対応 | 日本取引所グループ
国際財務報告基準が導入された経緯
IFRSの歴史は1960年代後半に始まります。
以下では、歴史と発展のプロセスを概説します。
- 初期の動き(1960年代 – 1970年代)
1960年代後半から1970年代初頭にかけて、世界各国で会計基準の国際的な調和に向けた動きが始まりました。国際取引が増加し、異なる国の企業間での比較可能性と透明性が求められるようになったことによります。
- IASCの設立(1973年)
1973年、国際会計基準委員会(International Accounting Standards Committee, IASC)が設立されました。IASCの目的は、国際的な会計基準を開発し、世界中の企業の財務報告の透明性と比較可能性を高めることでした。
- IASの発表(1973年 – 2000年)
IASCは、1973年から2000年までの間に、国際会計基準(International Accounting Standards, IAS)として知られる基準を発表しました。これが、現在のIFRSの原型となります。
- IASBの設立とIFRSの導入(2001年)
2001年、IASCは再編され、より独立性とプロフェッショナリズムを持った構造に改組され、国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board, IASB)が設立されました。IASBは新たに「国際財務報告基準(IFRS)」を発表し始め、それ以前にIASCによって発表されたIASも、順次IFRSとして再編される形で維持されました。
- IFRSの世界的な採用(2000年代 – 現在)
2000年代に入ると、IFRSは世界中で急速に採用され始めました。とくに、2005年には、欧州連合(EU)がIFRSを公開企業の連結財務諸表に対して必須とする決定をしました。
この決定を契機に、その後も多くの国と地域でIFRSの採用が進み、現在では100カ国以上でIFRSが採用されています。
- 定期的な改訂と更新(2000年代 – 現在)
IASBは、経済環境の変化や利害関係者からのフィードバックに基づいて、IFRSを定期的に改訂・更新しています。これによって、IFRSは現代のビジネス環境に適した、効果的な財務報告基準であり続けています。
こうしたプロセスを通じて、IFRSは現在、世界中で広く受け入れられている財務報告基準の一つとなり、国際的なビジネスの透明性と投資の流動性を向上させる役割を果たしています。
なお、日本でも、2010年年3月31日以後終了する連結会計年度から、任意にIFRSを適用できるようになっています。
日本がIFRSの導入を認めた理由は以下のような点からです。
- 金融資本市場がグローバル化し、投資資金の国際的な移動が加速化する中で、コンバージェンスの加速化に加え、IFRSを適用した財務報告によって、投資者から見た財務諸表の国際的な比較可能性の一層の向上、ひいては日本の金融資本市場の国際的な魅力の向上に資する。
- 海外の投資者にとって日本企業の作成する財務諸表の理解・分析がしやすくなることにより、企業にとっても資金調達関連コストの低減や国際的な資金調達の容易化を期待する観点
- 海外展開をしている企業にとって、海外拠点の財務経理面での経営管理の効率性向上やグループ・関係会社の会計基準の統一による財務報告の品質の向上、ひいては日本企業の国際競争力の強化に資するとの観点
- 日本の監査人の国際的な地位の維持・向上に資するとの観点
参考:IFRSの歴史|サービス:IFRS|デロイト トーマツ グループ|Deloitte
国際財務報告基準を導入した場合の影響
日本の会計基準とIFRSでは、会計基準の作成に対する考えからに異なる点があるため、日本企業がIFRSを導入した場合には、大きな変化があります。
以下では、日本企業がIFRSを導入した場合の影響について解説していきます。
原則主義になる
IFRSは原則ベースの基準であり、特定の取引や事象に対する具体的なルールよりも、一般的な原則とガイダンスを重視します。これにより、企業は会計基準の適用に際して、より多くの判断が必要となります。
日本の会計基準は従来、詳細なルールが設けられている傾向がありました。日本企業がIFRSを導入すると、会計処理の判断の基準が大きく変わり、経営者や監査人が新しい基準に基づく判断を行う必要が出てくるでしょう。
公正価値の測定方法が新基準へ統一される
IFRSの導入により、資産や負債の測定に「公正価値」が一層重視されます。公正価値評価は、市場価格や現在価値に基づいて資産や負債の価値を評価する方法です。
日本の従来の会計基準と比較すると、公正価値での評価は大きな変更点となります。公正価値の導入によって、財務諸表は環境の変化により敏感に反応するようになり、結果として財務諸表の変化が大きくなる可能性があります。
貸借対照表が重視される
IFRSでは、貸借対照表(バランスシート)の重要性が高まります。これは、IFRSが企業の財務状態(資産や負債の状態)をより正確に反映させるように設計されているためです。資産や負債の定義によって、誘導的に利益額を計算する資産・負債アプローチが採用されています。
会計方針が統一される
IFRSの導入により、企業は関連会社に対しても一貫した会計方針の適用を強く求められます。
これは、連結財務諸表が一貫性を持ち、より信頼性の高い情報を提供するための重要な要点です。具体的には、親会社と子会社、関連会社が同じ会計方針を適用することが、明確に要求されます。
一方で、日本の会計基準では、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は、原則として統一するのが「望ましい」とするにとどまり、会計方針の統一を強制的な要求としていません。日本の会計基準を適用している場合、関連会社間で異なる会計方針が採用される場面もあります。
IFRSの下での「会計方針の統一」の要求は、国際的な事業展開を行う企業において、各関連会社の財務情報が一貫して整理・提示されるため、外部からの評価がより明確かつ透明に行えるメリットがあります。
これにより、グローバルな資本市場での企業の競争力が一層向上し、投資家にとっても企業の健全な経営状態をより正確に把握可能となります。
国際財務報告基準を導入するメリット
国際財務報告基準(IFRS)の導入は、多くの企業にとって大きなメリットをもたらします。
これには、経営管理の効率化、国際的な競争力の向上、より透明な財務報告の実現、世界中からの資金調達の容易化など、さまざまな側面があります。以下に、IFRS導入の主なメリットを詳細に解説します。
海外の競合他社と比較しやすくなる
IFRSは世界中で広く採用されているため、IFRSを導入することにより、企業は海外の競合他社との財務情報の比較が容易になります。
これは、市場分析や競争力分析をより精緻に行い、適切な戦略を立てるための重要な基盤となります。
実態に即した状況把握が可能になる
IFRSは公正価値計測や包括的な情報開示が求められるため、将来キャッシュフローを考慮した数値を貸借対照表に計上することが可能になります。
これにより、企業の経営者やステイクホルダーは、企業の実態に即した状況把握が可能になり、より効果的な経営判断を行うことができます。
海外での資金調達がしやすくなる
IFRSは国際的に広く認知されている基準であり、IFRSに準拠した財務報告を行うことによって、企業はグローバルな資本市場での信用を高めることができます。
これにより、海外からの投資を受けやすくなったり、外国の金融機関からの融資や投資を受けたりすることが可能になります。
国際財務報告基準を導入するデメリット
国際財務報告基準(IFRS)を導入することは、多くのメリットをもたらしますが、一方でいくつかのデメリットも存在します。これには、実務上の負担の増加、初期コストの発生、および適用の難しさなどが含まれます。
以下では、IFRS導入の主なデメリットを詳細に解説します。
実務負担が増加する
IFRSの導入は、会計基準が従来のものから大幅に変更されるため、企業の財務部門に大きな実務の負担をもたらします。
これには、新しい基準に対するスタッフの教育と研修、会計システムの変更、そして定期的な情報開示の増加などが含まれます。
初期コストがかかる
IFRSを導入するには、初期の導入コストがかかります。
これには、会計システムの変更費用、関連するスタッフの教育・研修費用、専門家(たとえば、外部コンサルタント)による支援費用などが含まれます。
これらのコストは、とくに中小企業にとっては大きな負担となる場合があります。
適用が難しい
IFRSは内容が高度で複雑である場合が多く、とくに公正価値計測などの基準は、専門的な知識と経験が求められます。
このため、企業によっては、IFRSの適用が難しく、正確な財務報告を維持するために専門の人材を確保しなければならない場合もあります。
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まとめ
国際財務報告基準(IFRS)は、世界中の企業が利用する統一された会計基準であり、グローバルな財務情報の透明性と比較可能性を高めることを目指しています。
導入のメリットとしては、経営管理の効率化、海外競合との比較の容易化、実態に即した財務状況の把握、および国際的な資金調達の容易化が挙げられます。
一方で、デメリットとしては、実務負担の増加、初期コストの発生、適用の難しさがあります。
IFRS導入は、関連会社間での会計方針の統一をもたらすため、企業の組織全体の財務報告に大きな影響を与える可能性があります。
IFRS導入の際にはメリットとデメリットを総合的に検討し、IFRS導入の判断をするのが大切です。