手形には約束手形と為替手形がありますが、違いを説明できますか?
簿記の勘定科目では支払手形・受取手形の項目しかないため、よくわからない人も多いのではないでしょうか。
為替手形の種類やメリット・デメリット、取引するときの記載事項などをくわしく解説します。
目次
為替手形とは
手形とは、商品などの売買の際に使用される決済方法の一つで、決められた期日までに手形に記載された金額を支払うことが義務付けられた証券です。
手形には「約束手形」と「為替手形」の2種類があります。
約束手形は振出人と受取人の2者間、為替手形は振出人と受取人のほかに支払人の3者間で行われます。
振出人とは手形を作成した人、受取人とは手形に記載の金額を受け取る人、支払人とは手形に記載の金額を支払う人です。
振出人は手形作成者・差出人、受取人は指図人、支払人は名宛人・引受人と呼ばれることもあります。
なお、紙の手形は2026年末までに廃止され、全面電子化される予定です。
為替手形の種類
手形は大きく分けると約束手形と為替手形の2種類ですが、為替手形にも種類があります。
発行方法によって3種類に分類されます。
他人宛為替手形・自己受為替手形・自己宛為替手形の違いを確認しましょう。
他人宛為替手形
振出人と受取人と支払人の3者間で取引を行うときに使う為替手形です。
振出人が支払人に対し受取人への代金を支払う手段として為替手形を発行します。
その後、受取人が支払人から手形を引き受け、振出人から手形の受取処理が終了したとして処理されます。
為替手形の中でも、一番ポピュラーな方法です。
自己受為替手形
2者間で行い、振出人と受取人が同一人物の為替手形です。
取引を確実に行うために使われる方法で、輸出者が輸入者に対して取り立てをする際にも使用されています。
約束手形とほぼ変わらない機能を持っていますが、手形に貼る収入印紙は受取人が負担する部分が異なります。
自己宛為替手形
2者間で行い、振出人と支払人が同一人物の為替手形です。
この場合、支払人が収入印紙の負担をするため、自己宛為替手形は約束手形とほぼ変わりません。
異なる点は、引き落とし口座を振出人以外に設定ができること。支払人と離れていても手形を発行したい人におすすめの取引方法です。
為替手形のメリット
為替手形にはさまざまなメリットがあります。
振出人だけではなく、支払人にも、そして受取人にもメリットがあるのも特徴です。
入出金を伴わずに買掛金を消し込める
振出人は為替手形を発行することで、支払人が手形代金を支払うため、入出金を伴わずに買掛金の消し込みが可能です。
自社で買掛金を支払う必要がないため、口座の残高不足で起きる支払漏れも回避できます。
取り立てを確実化できる
自己受為替手形を使用すると、資金の取り立てを確実化できます。
相手が当座預金を持っていない場合は、約束手形を振り出すことができません。しかし、為替手形であれば取引が可能です。
掛取引よりも支払義務や期日に法的な力があり、支払いが遅れた場合は不渡りとなるため、支払いの強制力が高まるのもメリットの一つです。
支払人は支払いまでに猶予が生まれる
為替手形は支払人にとってもメリットがあります。それは、手形の発行から支払いまでに猶予が生まれることです。
支払期日までに売上を回収すれば、仕入の支払いに充てることができるので、資金繰りにも余裕ができます。
ただし、親会社の場合は下請法に注意しなくてはなりません。手形の発行は、繊維業に対しては最大90日、その他の業種に対しては最大120日以内の期日と決められています。
支払利息が発生しない
為替手形は借入金ではありません。
そのため、支払期日まで猶予があっても支払利息は発生しないのもメリットです。
為替手形のデメリット
為替手形は、使用するシーンによって多くのメリットがありますが、、デメリットもあります。
便利な支払いが滞ってしまうと、手形取引だけではなく融資にまで影響するため注意しなくてはなりません。
メリットだけではなく、デメリットも抑えた上で活用していくことが大切です。
不渡手形を出すと企業の信用度が落ちる
手形を発行しても、支払日に口座の残高不足により引き落としができないことを不渡りといいます。
6か月の間に2回以上の不渡手形を出してしまうと、支払人は取引停止処分を受けるため、会社の信用度が落ちます。
取引停止処分を受けると、当座預金取引と貸出取引が2年間できません。
信用を失い取引ができないどころか、融資も受けられず資金繰りが悪化し、倒産してしまうケースも少なくありません。
手形を受け取っても口座にお金がないと現金化できない
手形を受け取っても、すぐに現金化は叶いません。
指定された日に支払人の口座に現金がない場合は、受け取ることができないからです。
期日より前に現金を受け取る場合は、利子と手数料が発生する
受取手形は期日より前に、銀行や手形割引業者に買い取ってもらうことができます。
現金化を急いでいる人にとってはメリットかもしれません。
しかし、受取日よりも前に現金を受け取る場合は、利子と手数料が差し引かれてしまい、受取額が減ります。
割引手形と呼ばれており、手形の買い取りを依頼する人を割引依頼人、手形を受け取った人を割引人といいます。
資金調達を急いでいるときには助かりますが、不渡りになった場合は割引依頼人が割引人に手形に記載された金額を全額払わなければなりません。
為替手形と約束手形の違い
約束手形は2者間で取引され、手形を振り出した人が受取人に支払いを行います。
一方、為替手形は3者間で取引するのが基本であり、振出人と支払人が別になることがあります。
指定された期日までに支払いを行うルールは約束手形も為替手形も一緒です。しかし、利用するシーンや当事者の呼称が異なります。
利用するシーンが異なる
でんさいや振り込みなどの電子的決済が増加しているため、一般的に手形取引とは約束手形のことを指すことがほとんどです。
為替手形は、3者の合意が必要となり、約束手形よりも合意の調整に時間を要するため、確実に取り立てを行う必要があるときなど、特殊なケースで利用されています。
先ほどもご紹介のとおり、貿易取引で輸出者が輸入者に対して取り立てをする際や遠隔地の相手と決済するときに使用されています。
当事者の呼称が異なる
簿記の試験では、約束手形と為替手形で当事者の呼称が異なるため、混乱してしまうことがあります。
約束手形の場合、振出人は手形代金を支払う人、名宛人は手形代金を受け取る人です。
しかし、為替手形の場合は、振出人は手形を振り出すが支払義務はない人、名宛人は手形代金を支払う人、指図人は手形代金を受け取る人となり、名宛人の意味が異なります。
為替手形取引の仕組み
為替手形は3者間で行われることは分かりましたが、実際に手形にはどのような項目が記載されるのか具体的に見ていきましょう。
取引の仕組みを覚えていると、簿記の試験の際もイメージしやすく、約束手形との混乱も防げます。
為替手形の項目
為替手形の項目は以下のとおりです。
- 振出人(手形作成者):為替手形を振り出した人
- 振出日:手形を作成した日付
- 振出地住所:振出人の住所と会社名
- 受取人:為替手形の金額を受け取る人
- 支払人(引受人・名宛人):為替手形の金額を支払う人
- 引受日:支払人が為替手形を引き受けた日付
- 支払期日:為替手形を支払う日
- 支払地:為替手形を支払う金融機関の住所
- 支払場所:金融機関名と支店名
- 金額:支払う金額
為替手形の受取人は、手形を別の人に譲渡できます。
その際、手形の裏面に記録を残すことを裏書といい、譲渡する場合は手形の持ち主(裏書人)と譲渡先(被裏書人)を記入します。
支払人が被裏書人に支払わなかった場合は、裏書人が支払しなくてはなりません。
振出人が空欄の場合
振出人が空欄の手形を白地手形と呼びます。為替手形は支払人の引受が必須であることから、先に引受欄のみ記入されていることがあります。
しかし、振出人が記載されていない場合は手形要件を満たしていないため、補充をしなくてはなりません。一般的には、受取人が記載します。
また本来、振出人が印紙税を負担しますが、振出人が空欄の場合は印紙税を負担する人が変わります。
振出人以外の為替取引にかかわる人たちに印紙税の負担を強いられることになってしまうため、振出人は必ず記載しましょう。
印紙税
印紙税法では、印紙税を納めるべき20種類の課税文書が定められており、為替手形も印紙税を負担しなくてはなりません。
課税文書の種類や記載の金額などによって課税額が決まっており、手形も金額に応じて収入印紙の金額が異なります。
(参考:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」)
為替手形の仕訳例
入出金が伴わない手形取引でも、会計処理は必須です。
為替手形の取引を行った際の仕訳例を、振り出し・引き受け・受け取りに分けて見ていきましょう。
振り出し時
振出人として5万円の為替手形を振り出した場合の仕訳は以下のとおりです。
借方 | 貸方 |
買掛金 50,000円 | 売掛金 50,000円 |
手形の代金を支払う人への売掛金と、手形の代金を受け取る人の買掛金が減るため、このような仕訳になります。
一方、受取人は手形を受け取るため、以下の仕訳を行います。
借方 | 貸方 |
受取手形 50,000円 | 売上 50,000円 |
引き受け時
支払人として振出人から5万円の為替手形を引き受けた場合の仕訳は以下のとおりです。
借方 | 貸方 |
買掛金 50,000円 | 支払手形 50,000円 |
振出人に対する買掛金が減り、手形の支払いが増えるためこのような仕訳になります。
受け取り時
手形の代金を受け取ったときの支払人の仕訳は以下のとおりです。
借方 | 貸方 |
支払手形 50,000円 | 当座預金 50,000円 |
一方、受取人は代金の受け取りが完了したため、以下の仕訳を行います。
借方 | 貸方 |
当座預金 50,000円 | 受取手形 50,000円 |
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経理業務は全体像がわかればもっと効率的に!
経理の仕事は、伝票起票や経費精算など細かな日次業務が多く、全体像を見失いがちです。
その結果「何のためにこの業務をしているんだろう」とモチベーションの低下に繋がることもあります。
そのため、経理の仕事は特に、常に全体像を捉えながら進めていかなければなりません。
イメージとしては日々の仕事を「点」ではなく「線」として捉えること。
毎日の仕訳にしても、何となく取引金額を入力するのではなく、自社や取引先の財政状態や経営成績を念頭に置いたうえで入力することが大切です。
こうすることで、自社が取引先・借入先に対して、適切に支払いができるのか、あるいは取引先・貸付先から適切に入金が行われるのかを、仕訳と同時に予測できます。
極端な例ですが、こうした「意識的」な仕訳を繰り返すことで、会社の経営状況が見えてきて、黒字倒産を未然に防ぐといったことも。
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まとめ
為替手形は、振出人・受取人・支払人と3者間で行われる手形です。
それぞれにとってメリットのある取引ができる為替手形ですが、不渡りの可能性やすぐに現金化できないデメリットもあります。
すべての項目を正しく記載しないと、印紙税の負担が増えることもあり、注意が必要です。また、盗難や紛失には気を付けなくてはなりません。
簿記試験では、当事者の呼称が異なり混乱を招くことがあるため、手形取引を頭の中でしっかりとイメージできるようにし、仕訳方法を覚えましょう。