株主が持っている会計帳簿閲覧謄写請求権は、会社の会計帳簿や関係書類の閲覧ができる権利です。しかし株主全員が請求権を持っているわけではありません。
会計帳簿には重要な情報が記載されているため、会計帳簿閲覧謄写請求権を持っていても、請求権を行使するには、正当な理由が必要です。
会計帳簿閲覧謄写請求権で請求できる会計帳簿や行使する方法、会社は拒否が可能なのかなどをくわしく解説します。
目次
会計帳簿閲覧謄写請求権とは
会計帳簿閲覧謄写請求権とは、株主の権利の一つです。
会社法第433条に定められています。
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
(引用:会社法 e-Gov法令検索)
請求できる会計帳簿類
株主が閲覧請求をできるのは、会計帳簿と会計帳簿に関する資料です。
会計帳簿は、大きく分けると主要簿と補助簿があります。
主要簿は以下の3種類です。
- 日記帳
- 仕訳帳
- 総勘定元帳
日記帳は作成義務がありませんが、仕訳帳と総勘定元帳は作成が義務付けられています。
決算の際は総勘定元帳を基に、損益計算書や貸借対照表が作成されるため、正確性が求められる重要な帳簿です。
補助簿は主要簿の詳細が分かる帳簿です。銀行ごとの取引や残高、仕入先・得意先ごとの取引状況が把握できます。
さまざまな種類がありますが、主な補助簿は以下のとおりです。
- 預金出納帳
- 現金出納帳
- 商品有高帳
- 仕入帳
- 売上帳
- 支払手形記入帳
- 受取手形記入帳
- 仕入先元帳
- 得意先元帳
- 商品有高帳
- 固定資産台帳
会計帳簿に関する資料は、作成の際に入力の元となる書類のことです。
主な資料は以下のとおりです。
- 領収書
- 請求書
- 契約書
- 伝票
請求権を行使できる株主
会計帳簿閲覧謄写請求権はすべての株主が行使できるわけではありません。
会計帳簿閲覧謄写請求権を持っているのは、株式を3%以上保有している株主のみです。
ただし、1人で3%保有していない場合でも、複数人の株主で合計して3%以上となれば、請求権が行使できます。
また、定款に定めることで、3%以下に引き下げることも可能です。
会計帳簿閲覧謄写請求権を持っていても常に閲覧が可能なわけではなく、請求する際は理由を具体的に記載した書面が必要です。
閲覧や謄写の際に発生する費用は、株主が負担します。
権利行使のやり方
会計帳簿閲覧謄写請求権を行使するには、具体的な理由が必要です。
請求できる期間や理由など、具体的な権利行使の方法を見ていきましょう。
請求できる期間
請求できる期間は、会社の営業時間内であれば、いつでも会計帳簿の閲覧や謄写が可能です。
会社法第318条にも、以下のように定められています。
4 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
一 第一項の議事録が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧又は謄写の請求
二 第一項の議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
(引用:会社法 e-Gov法令検索)
請求の理由
会計帳簿の閲覧や謄写請求は、主に以下の理由が一般的です。
- 取締役の不正行為の疑いの調査
- 代表訴訟の要否の調査
- 経理上の問題点解明
違法行為の差し止めやすでに行われた不正行為に対し損害賠償を求めるための調査、取締役の解任を訴えるために請求するケースが多く見られます。
理由のみで請求できる場合と、理由を基礎づける事実がなければいけない場合もあります。
会社は請求を拒絶できるのか
会社は会社法第433条の2項に記載された内容に該当する場合、請求の拒絶ができます。
拒絶の理由として認められているのは以下のとおりです。
一 当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
四 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。
五 請求者が、過去二年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
(引用:会社法 e-Gov法令検索)
会計帳簿やその他の関係書類には、さまざまな情報が記載されています。濫用されると会社に影響がある場合は、拒絶が可能です。
たとえば、株主が同業他社の経営者など競売関係にある場合、会計帳簿などの閲覧により機密情報が漏洩し、会社の利益を害するリスクがあります。
また、第三者に漏洩する目的で行われた場合も拒絶の対象です。
ただし、会社側が不当に拒否をした場合、株主は裁判所に会計帳簿等閲覧謄写請求の仮処分手続きの申請がとれます。
比較的短期間で裁判所が判断するため、急いでいるときには有効です。
拒否理由の立証責任について
拒否理由の立証責任は、会社側にあります。
たとえば、第三者への情報漏洩を目的に会計帳簿閲覧謄写請求権が行使された場合、事実であるかは会社側が立証しなくてはなりません。
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まとめ
会計帳簿閲覧謄写請求権は、株式を3%以上保有している株主に限られます。
ただし、複数人でも保有が3%以上となれば請求が可能です。
条件を満たしている株主でも、理由なく閲覧はできません。会社の運営上マイナスになる場合は、拒絶されることもあります。
会計帳簿は会社の経営戦略を立てる上でも重要なものです。
会計帳簿閲覧謄写請求権に備えておくのはもちろん大切ですが、経理担当者は日ごろからしっかりと会計帳簿を作成・管理し、事業の発展に貢献していきましょう。