複式簿記は事業や個人事業主の会計において中心的な役割を果たす記録方法です。
初めて複式簿記の方法に触れる方や具体的な書き方に不安を感じる方も多いでしょう。本記事では、複式簿記の基本的な書き方を具体的な例を交えてわかりやすく解説します。
複式簿記は青色申告と深く関連しています。青色申告は所得税や住民税の計算と納付のための手続きで、複式簿記の方法で正確に帳簿をつけることが要求される制度です。
青色申告制度を利用することでさまざまな税制上のメリットを享受することができます。
本記事を通じて複式簿記の基本から青色申告との関連性まで幅広く理解を深めることが可能です。
目次
複式簿記とは
企業はさまざまな経済活動を行う一方で経済活動を記録しなければなりません。
経済活動を行うためには資金が必要ですが、資金は通常投資家や銀行から調達したものです。
調達した資金をどのように使ったのかを、企業は報告をする義務を負っています。そこで活用されているのが簿記です。
とくに、複式簿記が活用されています。以下では複式簿記の基本をわかりやすく解説します。
「借方」「貸方」という二つの側面から記録する方法
複式簿記とは一つの経済的な取引の2つの側面に着目して「借方」「貸方」という2つの側面から記録を行う方法です。
たとえば、商品を販売するという経済的な取引は商品を販売すると同時にその対価を受け取ることが起こっています。複式簿記では「借方」「貸方」を使って記録します。実際の記録は次のようになります。
借方) 勘定科目 | 金額 | 貸方) 勘定科目 | 金額 |
現金 | 1,000 | 売上 | 1,000 |
複式簿記は、1つの経済的取引を「借方」「貸方」という2つの側面から記録するための方法です。
なお、「現金」や「売上」という項目は、勘定科目と呼ばれます。特定の取引があった場合に使われる勘定科目はおおよそ決まっていますが、企業によっては同一の取引であっても異なる勘定科目が使われるケースもあります。
単式簿記との違い
複式簿記と単式簿記は会計の記帳方法として広く知られていますが明確な違いがあります。
複式簿記は取引を「借方」と「貸方」の二つの側面から記録する方法です。一つの取引に対して二つの勘定科目に記帳します。
「借方」と「貸方」に対して、資産・負債・純資産・収益・費用という5つの要素を割り当てます。
資産・負債・純資産・収益・費用という要素が増加するか・減少するかによって、「借方」記入・「貸方」記入のどちらかになるのが書き方のポイントです。
たとえば、商品を1,000円で販売して現金を受け取った場合、次のように記入します。
借方) 勘定科目 | 金額 | 貸方) 勘定科目 | 金額 |
現金 | 1,000 | 売上 | 1,000 |
これは、取引の結果、現金という「資産」が増加したため「借方」に、資産が増加した理由が「収益」の増加であるため「貸方」に、記入するという複式簿記の原理に則ったものです。
このように、一つの取引について貸方と借方のバランスを常に保つことで、会社の財産の状態を正確に把握できるのが、複式簿記の特徴です。
現金という会社の財産(資産)が増加した理由は、商品を売り上げたことであるのが仕訳で表現されています。
一方、単式簿記は、取引を一つの側面からしか記録しないシンプルな方法で主に小規模な事業者や個人事業主が利用します。しかし、複雑な取引や大規模な経済活動を正確に捉えることが難しいという欠点があります。
商品を1,000円で販売して現金を受け取ったという取引を単式簿記で記録する場合は次のように記録します。
日付 | 項目 | 摘要 | 入金額 | 支出額 | 残高 |
◯月◯日 | 商品の販売 | 顧客A | 1,000 | – | 1,000 |
単式簿記は、取引を現金の増減という一つの側面でしか捉えないことが特徴です。結果として、現金が増減しないような取引を記録することができなくなっています。
複式簿記の構造
複式簿記は、会社の経済的取引を記録するための重要なツールです。複式簿記では記録に際して、資産・負債・純資産・収益・費用という5つの要素に取引を分類しなければなりません。以下では、複式簿記の構造として貸借対照表との関係と勘定科目との関係を解説します。
複式簿記と貸借対照表の関係は?
貸借対照表(B/S)は、ある特定の時点での会社の資産・負債・純資産の状況を示す財務諸表の一つです。資産は会社が所有する財産や権利を、負債は会社が他者に対して負っている債務を、純資産は会社の資本や利益を示します。
複式簿記では、会社の経済的な取引を資産・負債・純資産・収益・費用に分類して記録しなければなりません。記録された資産・負債・純資産は、貸借対照表に表示されることになります。一方、収益と費用は損益計算書に表示されます。
したがって、複式簿記は、貸借対照表を作成するための前提です。複式簿記によって経済的な取引が資産・負債・純資産に分類されているからこそ明確に貸借対照表に表示することができます。
主な勘定科目
簿記や会計業務において、取引の内容を正確に記録するためには「勘定科目」の理解が不可欠です。
勘定科目は取引の内容や性質に応じて分類される項目であり、会社の経済活動を具体的に示しています。以下は、会社で頻繁に使用される代表的な勘定科目についての説明です。
- 資産の勘定科目
会社が所有する財産や権利を示す項目です。例として「現金」「現金預金」「当座預金」「売掛金」「棚卸資産」などがあります。
- 負債の勘定科目
会社が他者に対して負っている債務を示す項目です。例として「買掛金」「未払金」「借入金」などが挙げられます。
- 純資産勘定科目
会社の資本や利益を示す項目です。例として「資本金」「資本剰余金」「利益剰余金」などがあります。
- 収益勘定科目
会社の収入を示す項目。例として「売上」「受取利息」「雑収入」などが考えられます。
- 費用勘定科目
会社の経費やコストを示す項目です。例として「仕入」「給与」「租税公課」「広告宣伝費」などが挙げられます。
勘定科目は、取引の内容や性質に応じて適切に選択され、仕訳帳・元帳・決算書などに記載されます。当然、1から5以外にもさまざまな勘定科目が存在します。正確な勘定科目の選択は、会計情報の信頼性を保つために非常に重要です。
複式簿記の書き方
複式簿記は、原則として、会社が行う経済的取引を「原因」と「結果」の両面で捉えて記録する方法です。
たとえば、事業のお金でボールペンを購入した場合、「消耗品費が増えた」と「現金が減った」という2つの面を考慮します。
2つの面を左右に分けて記録することを「仕訳」と呼び、左側を「借方」、右側を「貸方」と称します。
以下では特定の経済的取引が行われた場合の具体的な複式簿記の書き方について解説します。
例:商品を売り上げ、代金を現金で受け取った
商品を現金3万円で売り上げた場合、記録するのは「売上(収益)が増加した」ことと「現金(資産)が増加した」ことの2つです。この場合、「現金」は借方、「売上」は貸方として記録されます。
借方) 勘定科目 | 金額 | 貸方) 勘定科目 | 金額 |
現金 | 30,000 | 売上 | 30,000 |
この仕訳により、企業の資産(現金)が増加し、同時にその原因となる収益(売上)も増加したことが帳簿に記録されます。
例:広告宣伝費を現金で払った
広告宣伝費を3万円分支払った場合、記録するのは「広告宣伝費(費用)が増加した」と「現金(資産)が減少した」の2つです。この場合、「現金」は貸方、広告宣伝費は借方として記録されます。
借方) 勘定科目 | 金額 | 貸方) 勘定科目 | 金額 |
広告宣伝費 | 30,000 | 現金 | 30,000 |
この仕訳により企業の資産(現金)が減少し、同時に原因となる費用(広告宣伝費)が増加したことが帳簿に記録されます。
例:銀行から現金を借り入れた
銀行から3万円分の現金を借り入れた場合、記録するのは「現金(資産)が増加した」と「借入金(負債)が増加した」の2つです。この場合「現金」は借方、借入金は、貸方として記録されます。
借方) 勘定科目 | 金額 | 貸方) 勘定科目 | 金額 |
現金 | 30,000 | 借入金 | 30,000 |
この仕訳により企業の資産(現金)が増加し、同時に原因となる負債(借入金)が増加したことが帳簿に記録されます。
例:借入金を現金で返済した
銀行から3万円分の現金を借り入れた借入金を現金で返済した場合、記録するのは「現金(資産)が減少した」と「借入金(負債)が減少した」の2つです。この場合は「現金」は貸方、借入金は、借方として記録されます。
借方) 勘定科目 | 金額 | 貸方) 勘定科目 | 金額 |
借入金 | 30,000 | 現金 | 30,000 |
この仕訳により企業の資産(現金)が減少し、同時に原因となった負債(借入金)が減少したことが帳簿に記録されます。
単式帳簿と複式帳簿では、青色申告の控除額が異なる
事業を営む事業者や会社は自身の所得(利益)に対して所得税や住民税といった税金が課されます。課される税金の金額は、個人事業主の場合は所得に、会社の場合は利益に対して課されます。
したがって、正確に所得や利益を計算することが税制上は重要な意味を持っています。
正確に計算しないと適切に課税を行うことができないからです。
日本では、確定決算主義が採用されているので、1年に一度、所得や利益を事業者が自ら計算して申告しなければなりません。この手続きを確定申告と呼びます。
以下では、確定申告と複式簿記の関係についてわかりやすく解説します。
確定申告の種類
確定申告は、所得税や住民税の計算と納付のための手続きであり、事業を営む個人や法人が行う必要があります。確定申告には大きく分けて以下のような2つの種類があります。
- 青色申告
- 白色申告
青色申告とは、複式簿記を前提に経済的取引の記録を行って申告を行う方法です。
複式簿記で記録するため、経済的取引を詳細に記録することができ、正確に所得や利益を計算できます。一方で、複式簿記を前提とした記録が必要であるため手間がかかり、作成しなければならない帳簿や決算書も難解です。
他方の白色申告とは、単式簿記を前提に、経済的取引の記録を行って申告を行う方法です。
単式簿記で記録するため詳細な記録の手間があまりかからず、作成しなければならない帳簿や決算書も複式簿記と比べれば易しくなります。一方で、経済的取引を詳細に記録することができないため、所得や利益の計算がやや不正確になってしまいます。
白色申告は相対的に手間がかからず高度な簿記の知識は必要ありません。しかし、所得や利益について正確な計算が難しいことから、税制上は優遇措置がありません。
複式簿記が優遇される理由
単式簿記と比べて、複式簿記の作成には簿記の知識と手間がかかります。
しかし複式簿記を活用した方が会社の経済的取引を原因と結果に分けて詳細に記録することが可能です。逆にいえば、詳細に記録された帳簿があれば会社の経済的取引も正確に把握できます。
課税当局である税務署としては課税の公平性を担保しなければなりません。
同じ経済的取引が行われた結果として、100万円の利益がある会社に対して、10万円しか課税しない会社と50万円も課税する会社があっては課税の公平性が損なわれます。
課税の公平性を損なわないようにするためには、税務署は会社の経済的取引を追跡できなければなりません。複式簿記が採用されている企業であれば税務署は単式簿記と比べてより詳細に経済的取引を追跡できます。
したがって、複式簿記を採用している企業に対して税制上の優遇を設けることで、事業者が複式簿記を採用するインセンティブを与えているといえるでしょう。
青色申告の控除に必要な会計帳簿の種類
青色申告で確定申告を行う場合には、原則として複式簿記により記帳を行う必要があります。
記録するための帳簿にはさまざまな種類がありますが、以下では主要簿と補助簿に分けて、青色申告に必要な会計帳簿を解説します。
主要簿
主要簿とは日々発生する経済的取引を記録するための帳簿のことをいいます。代表的なものとしては仕訳帳と総勘定元帳があります。
仕訳帳は日々の取引を日付順に記録していくための帳簿です。
仕訳帳への記録は複式簿記に基づいて行われるため、貸方・借方に分けて勘定科目と金額を記録します。これによって、日々どのような経済的活動が行われたかを把握することが可能です。
一方、総勘定元帳とは、勘定科目ごとにまとめた帳簿のことをいいます。仕訳帳には、勘定科目が日付順に記録されますが、記録が多すぎてわかりにくくなってしまいます。
たとえば、売上によって10万円の現金が10回入金された場合、仕訳帳には10回分の入金を記録しなければなりません。
そこで、現金という勘定科目が使われた取引をまとめるための帳簿(総勘定元帳)を別途作成します。
そうすることで、現金という勘定科目が使われた取引だけが記録された帳簿ができ、一目見るだけでどのような現金に関する取引が行われたかを把握可能です。
なお、簿記の世界では仕訳帳から総勘定元帳にまとめを作成する手続きを「転記」と呼びます。転記とは、仕訳帳に記録された勘定科目ごとに総勘定元帳へまとめを作成する手続きのことをいいます。
補助簿
主要簿以外の記録のために作成する帳簿は、一般に補助簿と呼ばれます。代表的な補助簿としては「現金出納帳」「売掛帳」「買掛帳」「経費帳」「固定資産台帳」などがあります。
補助簿は主要簿を補助するための帳簿です。たとえば、固定資産台帳は、会社が保有する固定資産としてどのようなものがあるかを記録した帳簿です。
物を保有している場合、仕訳帳や総勘定元帳には、建物(勘定科目)と金額だけが記載されています。
そのため、主要簿だけではその建物がどのようなものであるのかを把握できません。
そこで、建物の詳細を記録するために用いられるのが固定資産台帳と呼ばれる補助簿です。補助簿には、主要簿に記録されていない補助的な情報を記載します。
青色申告における必要書類の保管期間
青色申告において帳簿や書類は保存期間が定められています。したがって、青色申告を行う場合、必ず帳簿や書類を保存しなければなりません。保存期間は帳簿や書類によって異なりますが、以下のようにまとめられます。
保存が必要なもの | 保存期間 | ||
帳簿 | 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など | 7年 | |
書類 | 決算関係書類 | 損益計算書、貸借対照表、棚卸表など | 7年 |
書類 | 現金預金取引等関係書類 | 領収書、小切手控、預金通帳、借用証など | 7年 |
書類 | その他の書類 | 取引に関して作成し、または受領した上記以外の書類(請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など) | 5年 |
複式簿記・確定申告に関するよくある質問
複式簿記と確定申告は事業や個人事業主の会計と税務において非常に重要な要素です。
とくに、青色申告を行う場合、複式簿記の方法で帳簿をつけることが求められます。
しかし、複式簿記を活用して確定申告を行うことには多くの疑問や誤解が存在します。以下では、複式簿記と確定申告に関する一般的な質問と回答を提供します。
帳簿をつけてないとどうなる?
複式簿記は、取引の「原因」と「結果」の2側面を記録する方法です。青色申告を行う場合、複式簿記の方法で帳簿をつけることが必要です。
帳簿を正しくつけないと、青色申告決算書を税務署に提出する際に、必要な書類を作成することができません。
これにより、青色申告の税制上のメリットを享受することができなくなる恐れがあります。
帳簿はノートに手書きで付けてもいい?
帳簿はノートに手書きでつけることも可能です。重要なのは取引の内容を正確に記録し、必要な情報が確認できる形で整理されていることです。
手書きの帳簿でも、取引の日付・取引の内容・金額・勘定科目などの情報が明確に記載されていれば問題ありません。
ただし、近年では、インボイス制度や電子帳簿保存法など、法制度の整備が進んでおり、会計システム(会計ソフト)を活用して、帳簿をつけた方が、多くのメリットがあります。
帳簿はエクセルで付けてもいい?
エクセルを使用して帳簿をつけることも可能です。
エクセルを使用することで、自動計算やデータの整理が容易になり、効率的に帳簿をつけることができます。
さらに、エクセルにはテンプレートも多数提供されているため、初心者でも比較的簡単に帳簿を開始することができます。
ただし、エクセルでの帳簿作成には、基本的なエクセルの操作方法や複式簿記の知識が必要です。
また、エクセルはあくまでも表計算ソフトであるため、会計ソフトのように経理業務を効率化することは難しいことに留意すべきです。
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経理業務は全体像がわかればもっと効率的に!
経理の仕事は、伝票起票や経費精算など細かな日次業務が多く、全体像を見失いがちです。
その結果「何のためにこの業務をしているんだろう」とモチベーションの低下に繋がることもあります。
そのため、経理の仕事は特に、常に全体像を捉えながら進めていかなければなりません。
イメージとしては日々の仕事を「点」ではなく「線」として捉えること。
毎日の仕訳にしても、何となく取引金額を入力するのではなく、自社や取引先の財政状態や経営成績を念頭に置いたうえで入力することが大切です。
こうすることで、自社が取引先・借入先に対して、適切に支払いができるのか、あるいは取引先・貸付先から適切に入金が行われるのかを、仕訳と同時に予測できます。
極端な例ですが、こうした「意識的」な仕訳を繰り返すことで、会社の経営状況が見えてきて、黒字倒産を未然に防ぐといったことも。
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まとめ
複式簿記は、経済的取引を「原因」と「結果」という2側面で捉えることができる記録方法です。複式簿記で記録することでより詳細に事業者の活動と結果を把握することができます。
そのため、所得や利益を計算するための手続きである確定申告の際にも複式簿記での記録が推奨されています。
ただし、複式簿記の記録は手間がかかることから、何もインセンティブがない場合、事業者は複式簿記で記録を行おうとしません。複式簿記での記録を採用する事業者を増やすことを目的に青色申告という税制上の優遇措置が設けられています。
会計や税務は複雑な分野であり、初心者の方はとくに戸惑うことが多い分野です。しかし、基本をしっかりと理解し正しい方法で帳簿をつけることで、事業の健全な運営や税務処理が実現します。