単式簿記と複式簿記の違いは?それぞれの書き方やメリット・デメリットも比較

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簿記は、企業や個人事業主が日々の経済活動を記録するためのツールです。

簿記には「単式簿記」と「複式簿記」という2つの記録方法があり、それぞれ異なる特徴と用途があります。

単式簿記は、入出金だけを記録する簡易的な方法で、小規模なビジネスや個人事業主に向いています。

一方、複式簿記は収入と支出、資産と負債など、企業の経済活動を二重に記録する方法で、より詳細な情報が得られるため、大規模なビジネスや正確な財務情報が求められる場面で活用されています。

本記事では、単式簿記と複式簿記の基本的な違いから、それぞれの記帳の仕方、メリット・デメリットを詳しく比較し、どちらの方法がビジネスやニーズに適しているのかを明らかにします。

また以下の記事では複式簿記の歴史について紹介しています。ご興味のある方は、是非一読ください。
複式簿記の歴史を紹介!複式簿記が広まった理由や株式会社との関係性も解説

単式簿記とは

単式簿記は、主に小規模な企業や個人事業主が利用する簡易的な会計記録方法です。

この方法で記録される主要な帳簿は、一般的に「現金出納帳」とも呼ばれるもので、日常の現金の収入と支出を日付順に記載していきます。

具体的な記録方法は以下です。

  • 収入の記録

商品を販売した際やサービスを提供した際の収入、ほかからの借入れ、お金が入ってきた場合に「収入」として記録します。

  • 支出の記録

商品の仕入れや経費の支払い、借りたお金の返済など、お金を支払った場合に「支出」として記録します。

  • 残高の計算

収入と支出を日ごと、または必要に応じて累計し、その時点での現金残高を算出します。

例として、Aさんが個人事業主として小さな店を経営していると仮定します。1月1日に5,000円の商品を仕入れた場合、単式簿記の現金出納帳には「1月1日、商品仕入れ、支出5,000円」と記録します。翌日、1月2日にその商品を7,000円で販売した場合、「1月2日、商品販売、収入7,000円」と記録します。

このように、単式簿記は直感的でわかりやすく、特別な会計知識がなくても取引の記録ができるのが特長です。ただし、事業の規模が大きくなると、複数の取引先や多様な取引内容を一つの帳簿で管理するのは難しくなるため、複式簿記への移行を検討することが多くなります。

複式簿記との違い

単式簿記は、現金の収支に基づいて帳簿と呼ばれるノートに記録する技法です。一方、複式簿記は、現金の収支ではなく、収益と費用の発生に基づいて帳簿と呼ばれるノートに記録を行う技法です。

複式簿記では、経済的な取引を二重に記録します。「二重」とは、取引の影響を受ける2つの要素(たとえば、資産と負債や資産と資本など)に対して、それぞれの変動を記録することを指します。この方法により、取引の正確さが確保されます。

具体的な記録の流れは以下の通りです。

  1. 仕訳記入

まず、取引が発生した際、「仕訳」という形で日記帳に記録します。この際、必ず借方(デビット)と貸方(クレジット)の二つの側面で取引の影響を記入します。

  1. 総勘定元帳への転記

仕訳された取引内容を、各勘定科目の「総勘定元帳」に転記します。このことで、各勘定科目の増減や残高を追跡できます。

  1. 試算表の作成

一定期間の終わり(例:月末、年末)に、すべての勘定科目の残高をまとめて「試算表」を作成します。この試算表により、仕訳の間違いやバランスの不整合をチェックします。

  1. 財務諸表の作成

試算表を基にして、損益計算書や貸借対照表などの「財務諸表」を作成します。

例として、企業が10万円で商品を購入した場合、複式簿記では以下のように仕訳されます。

  • 借方:「商品」10万円(資産の増加)
  • 貸方:「現金」10万円(資産の減少)

このように、一つの取引に対して二つの側面(この場合は「商品」の増加と「現金」の減少)を記録することで、会計の均衡が常に保たれます。

複式簿記は、取引の内容や影響を正確に把握し、経営者やステークホルダーへの情報提供の基盤となるため、多くの中大規模の企業や組織で採用されています。

まとめると、単式簿記と複式簿記の違いは以下です。

  • 記録の方法
  • 単式簿記
    取引を一つの側面のみから記録します。
  • 複式簿記
    同じ取引を二つの側面から記録します。
  • 検証可能性
  • 単式簿記

取引の正確性をチェックする仕組みが基本的にはありません。

  • 複式簿記

借方と貸方のバランスが常に取れていることを確認することで、取引の正確性を保ちます。

  • 対象とする組織の規模や目的
  • 単式簿記

主に小規模なビジネスや個人事業主が、簡易的な記録を目的として使用します。

  • 複式簿記

中大規模の企業や組織が、取引の正確性を確保し、財務諸表(損益計算書や貸借対照表など)を作成するために使用します。

  • 財務諸表の作成
  • 単式簿記

基本的には財務諸表の作成を目的としていないため、損益計算書や貸借対照表を作成する機能がありません。

  • 複式簿記

詳細な取引の記録を基にして、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表を正確に作成できます。

これらの違いから、組織の規模や業務の複雑さ、必要な情報の度合いに応じて、単式簿記と複式簿記のどちらを選択するかが決まります。

単式簿記の書き方

単式簿記は簡潔な記録手法で、取引の一側面だけを記録します。つまり、単式簿記では、

基本的に現金の出入りを中心に取引を記録していきます。主に小規模事業者や個人事業主が利用する記録方法です。

まず、単式簿記を行う際には、主に「収入簿」と「支出簿」の2つの帳簿を使用します。

これらの帳簿は、商店や個人事業主向けに販売されている簿記帳や、自作のエクセルシートなどでも良いでしょう。

収入簿と支出簿を分けずに、一冊の帳簿に現金の出入りを記録するのも可能です。

  1. 収入簿の書き方
  • 日付: 収入が発生した日を記入します。
  • 内容: 収入の理由や内容を具体的に記述します。
  • 金額: 収入の金額を記入します。
  • 備考: 必要に応じて、そのほかの詳細やメモを記入する欄です。
  1. 支出簿の書き方
  • 日付: 支出が発生した日を記入します。
  • 内容: 支出の理由や内容を具体的に記述します。
  • 金額: 支出の金額を記入します。
  • 備考: 必要に応じて、そのほかの詳細やメモを記入する欄です。
  • 月末や年度末には、収入と支出を合計し、収支のバランスを確認します。

例として、1月1日にオフィス用品として文房具を購入した場合、支出簿に「1月1日、オフィス用品購入、¥5,000」と記入します。1月3日に商品Aを販売して収入が得られた場合、収入簿に「1月3日、商品Aの売上、¥10,000」と記入するという具体的な手続きを取ります。

単式簿記は、取引ごとの出入金を直接的に記録する方法です。簡潔に収支を把握できるため、日々の取引が少ない小規模な事業や個人事業主にとっては非常に取り入れやすい記録方法となっています。

  • 具体例1

 2023年8月25日に田中さんがオフィス用品として10,000円分のペンを現金で購入した場合

  • 日付: 2023年8月25日
  • 内容: オフィス用品購入
  • 出金: 10,000円
  • 残金: [前日残高 – 10,000円]
  • 具体例2

翌日、田中さんがサービスの提供で収入として50,000円を現金で受け取った場合

  • 日付: 2023年8月26日
  • 内容: サービス提供収入
  • 入金: 50,000円
  • 残金: [前日残高 + 50,000円]

複式簿記の書き方

一方、複式簿記では、単式簿記と異なり、すべての経済的活動について二重の記録を行います。

  • 具体例1

オフィス用品として10,000円分のペンを現金で購入した場合

  • 日付: 2023年8月25日
  • 借方:
  •   オフィス用品      10,000円
  • 貸方:
  •   現金            10,000円
  • 具体例2

翌日、サービスの提供で収入として50,000円を現金で受け取った場合:

  • 日付: 2023年8月26日
  • 借方:
  •   現金            50,000円
  • 貸方:
  •   売上収益          50,000円
  • 具体例3

その後、社員の給与として30,000円の現金を支払った場合:

  • 日付: 2023年8月27日
  • 借方:
  •   給与            30,000円
  • 貸方:
  •   現金            30,000円

複式簿記は、経済的取引を2つの側面から捉え、その変動を帳簿に記録する方法です。「2つの側面」とは、取引によって増減する「資産・負債・資本」や「収益・費用」という会計要素を指します。複式簿記では、すべての取引において借方と貸方の2つの側面で記録します。以下に、複式簿記の基本的な書き方と具体的な取引の例を示します。

  1. 基本的な書き方
  • 取引が発生した際には、仕訳帳にその取引の内容を借方と貸方で記入します。
  • 仕訳帳の記載を基に、それぞれの勘定科目別に台帳(元帳)に取引を転記します。
  • 期末に元帳の情報を基に、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を作成します。
  1. 具体的な取引の例
  • 例1: 銀行から100万円を借り入れた場合
  • 借方: 現金 100万円
  • 貸方: 借入金100万円
  • 例2: 50万円で商品を購入(現金支払)
  • 借方: 仕入 50万円
  • 貸方: 現金 50万円
  • 例3: 70万円で商品を販売(掛け売り)
  • 借方: 売掛金 70万円
  • 貸方: 売上 70万円

複式簿記のメリットは、会社の資産や収益の動きを詳細に追跡できることにあります。

これにより、資金の流れや業績の状況を正確に把握可能となります。

収入と支出だけでなく、資産や負債、資本などの変動も同時に捉えるため、会社の健全性や財政状態を総合的に評価できるのも大きな特徴です。

単式簿記のメリット

単式簿記は、取引を一つの側面からしか捉えない簿記方法で、とくに小規模なビジネスや個人事業主に適しています。この方法の最大の利点はシンプルさにあり、複雑な会計の知識を必要とせず、迅速に帳簿を付けられることです。

簡単に帳簿付けできる

単式簿記は、取引の入出金のみを記録するため、帳簿の管理が非常にシンプルです。

たとえば、商品を販売して収入が発生した場合、収入の金額だけを「収入帳」に記入するだけです。

同様に、商品を仕入れたり、経費を支払ったりした際も、支出の金額だけを「支出帳」に記載します。各取引に対して一つの記録だけを行うため、帳簿の作成や管理が簡単になります。

各取引に対して一つの記録だけを行うため、帳簿の作成や管理が簡単になるのです。

シンプルな方式の単式簿記は、会計に不慣れな人や、複雑な帳簿を必要としない小規模事業者にとって、非常に取り組みやすいメリットとなっています。

単式簿記のデメリット

単式簿記はそのシンプルさから小規模事業者には利点として働きますが、シンプルさのためにいくつかの限界が存在します。

以下では、単式簿記のデメリットについて詳しく解説します。

貸借対照表を作成できない

単式簿記では、取引について現金の増減だけで記録するため、現金という財産の増減を把握することは可能です。しかし、調達した資金とその運用のバランスを示す貸借対照表を作成することはできません。

単式簿記のシステムは基本的に「収入」と「支出」のみを追跡するものです。このようなシンプルな記録方法は、小規模なビジネスや個人の家計簿には適していますが、企業の全体的な財務状態を詳細に把握するには向いていません。

以下が、単式簿記で貸借対照表を作成することが困難な理由です。

  1. 資産・負債の情報が不足

単式簿記では主に収入と支出に焦点を当てているため、現在の資産(現金、売掛金、棚卸資産など)や負債(借入金、買掛金など)の具体的な状況が記録されていない場合が多いです。

  1. 二重の記録がない

複式簿記は取引のたびに借方と貸方を作成するため、帳簿が常にバランスが取れているか確認できます。これに対して単式簿記は一つの記入のみで、借方と貸方のバランスをチェックする機能が存在しません。

  1. 資本の変動を追跡しづらい

単式簿記では、事業主の投資や引き出し、利益の再投資など、資本の変動を詳細に追跡するのが困難です。

とくに資金調達や事業の拡大を検討する際に、この情報が不足すると、外部からの信用評価が低くなったり、適切な経営判断が難しくなったりするリスクが高まります。

受けられる控除が少ない

単式簿記は非常にシンプルな考え方で記帳ができる一方で、事業活動の成果を正確に記録することが難しくなります。単式簿記は個人事業主をはじめとする小規模事業者によく利用されていますが、個人事業主が稼いだ所得を正確に計算することができません。

日本では、個人事業主の方が正確に所得を計算し、納税することを推奨するために、青色申告制度という税制優遇措置が講じられています。

税制優遇を利用すれば、控除額を大きくすることが可能です。控除額が大きくなれば、所得額が小さくなり、納めるべき税額が少なくなります。しかし、単式簿記を利用している場合、この税制優遇を受けることができません。

参考:国税庁ホームページ

複式簿記のメリット

単式簿記で記帳することにメリットがあったように、複式簿記で記帳することにもメリットがあります。

複式簿記で記録をする最大のメリットは、青色申告特別控除という税制優遇を受けられることです。

以下では、複式簿記のメリットである青色申告特別控除について簡単に解説します。

青色申告特別控除を受けられる

青色申告特別控除を受けるためには、年末に貸借対照表と損益計算書を作成できるような正規の簿記による記帳が原則となっています。

正規の簿記による記帳とは、複式簿記による記帳のことです。青色申告特別控除を利用すれば55万円の控除を受けることができます。これに加えて、電池帳簿保存、またはe-Taxによる電子申告を行うことで65万円の控除を受けられます。

参考:国税庁ホームページ

複式簿記のデメリット

複式簿記で記帳を行うことで、青色申告特別控除のような税制優遇を受けられる一方、複式簿記で記帳を行うためには、簿記の知識が必要です。

簿記の知識が必要になる

複式簿記で記帳を行うためには簿記の知識が不可欠です。

しかし、以下の点を理解していないと、複式簿記で記帳を行うことができません。

  1. 取引の特定

まず、記録すべき経済的な取引を特定します。たとえば、商品の売買、資金の借入・返済、賃金の支払いなどがこれに該当します。

  1. 取引の分類

取引内容を適切な帳簿やカテゴリ(資産、負債、資本(純資産)、収益、費用)に分類します。

  1. 帳簿への記録

分類した取引を、日記帳や元帳などの帳簿に記入します。単式簿記では1つの取引に対して1つの記入を行い、複式簿記では1つの取引に対して少なくとも2つの記入(借方と貸方)を行います。

  1. 財務諸表の作成

帳簿に記録された情報をもとに、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を作成します。

簿記による記帳は、企業や事業者が金銭的な動きを透明にし、内部・外部のステークホルダーに情報を提供するための基本的な手段となっています。税務申告や監査の際に、正確かつ適切な記録が求められるため、簿記の知識と実践は非常に重要です。

個人事業主は帳簿付けの義務がある

個人事業主として事業活動を行っている場合には、事業所得を計算するために、帳簿付けを行って取引の記録を残しておく義務があります。

帳簿付けの義務は、税務当局が事業者の経済活動を確認し、適切な税額を計算・徴収するための基盤となるものです。事業者自身にとっても、事業の収益性やキャッシュフローを把握するうえでの重要な手段となります。

この義務を怠ると、税務調査時に帳簿の不備や誤りが指摘され、追徴課税や罰則が科される可能性もあるため、個人事業主は帳簿付けに十分な注意を払うべきです。

会計ソフトを使うと帳簿付けしやすい

近年では、会計ソフトウェアの進化により、簿記の専門知識がない個人事業主や小規模企業でも容易に帳簿付けが可能です。。

かつては複雑な計算や帳簿付けが手動で必要であったものの、現代の会計ソフトウェアはユーザーフレンドリーなインターフェースと自動化された機能を備えています。

たとえば、一部のソフトウェアでは、領収書をスキャンするだけで関連する取引を自動で入力・分類する機能を持っています。これにより、入力ミスを減少させるとともに、帳簿付けにかかる時間を大幅に短縮可能です。これらのソフトは多くの場合、自動的に税金や合計額を計算してくれるため、計算ミスによる誤りを避けることもできます。

多くの会計ソフトはクラウドベースであるため、外出先からでも帳簿へのアクセスや更新が可能です。これにより、柔軟に業務を行うことができるようになりました。

もちろん、会計ソフトはあくまでツールです。最終的な確認や判断は利用者自身が行う必要があります。

会計ソフトウェアの進化は、帳簿付けを容易にする一方で、基本的な会計の知識があると、より効率的に、かつ、正確に業務を進められるでしょう。

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まとめ

単式簿記と複式簿記は、経済活動を記録する方法として広く利用されていますが、特性や用途には大きな違いがあります。

単式簿記は、主に小規模なビジネスや個人事業主向けの簡易的な記録方法で、入出金の動きだけを追うものです。

この方法のメリットとしては、手軽さとわかりやすさが挙げられますが、貸借対照表の作成が難しい、控除の範囲が限られるなどのデメリットもあります。

一方、複式簿記は、収入と支出、資産と負債を二重に記録する方法で、企業の経済活動を詳細に把握できるメリットがありますが、簿記の知識が必要となる点がデメリットとして考えられます。

どちらの方法を選択するかは、ビジネスの規模やニーズに応じて検討する必要があります。

正しい理解と適切な選択で、効率的な経営を実現しましょう。

この記事を書いた人

CPAラーニング編集部

ライターCPAラーニング編集部

ライターCPAラーニング編集部

簿記・会計をこよなく愛するCPAラーニングコラムの編集部です。簿記検定に合格するためのポイントや経理・会計の実務的なコラムまで皆様に役立つ情報を提供していきます。

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