企業が収益や費用、資産、負債などの会計情報を適切に記録し管理することは、健全な経営の基盤を築くための一環です。
複式簿記という会計手法は、単に収支を記録するだけでなく、取引の全体像を捉え、資金の流れを明確に示す手法です。
そのため、企業の経済活動や財務状況を詳細に理解し、経営判断や税務申告に役立てることができます。
本記事では、複式簿記の基本概念や特徴、メリット、デメリットまでくわしく解説します。
目次
単式簿記とは
単式簿記は、基本的な取引情報を簡潔に記録する方法です。取引ごとに一つの勘定科目に金額を記入するだけで、取引の詳細な内訳や勘定科目の関連性はくわしく記録されません。
単式簿記は、小規模な事業や個人事業主などが取引記録を簡単に保持するために使用することが多い方法です。
具体的な事例を通じて、単式簿記の仕組みを理解してみましょう。
事例:喫茶店の単式簿記
売上の記録
1杯あたりの価格が300円のコーヒーを100杯販売した。
売上(収益勘定):30,000円 |
この記録により、喫茶店の売上が30,000円であったことが分かります。しかし、売上がどのような種類のコーヒーから生まれたのかや、他の経費との関連性は分かりません。
仕入れの記録
代金が15,000円の新しいコーヒー豆を仕入れた。
仕入(支出勘定):15,000円 |
この記録により、コーヒー豆の仕入れに15,000円の支出があったことが分かります。しかし、どのような種類のコーヒー豆を仕入れたのかや、売上との関連性は分かりません。
このように単式簿記は、取引の収支を簡潔に記録する手法ですが、詳細な内訳や資金の流れまでは把握できません。
複式簿記とは
複式簿記は、取引ごとに少なくとも二つの勘定科目に金額を記入する方法です。複式簿記では、取引の資金の流れと会計のバランスを詳細に把握できます。
具体的な事例を通じて、複式簿記の仕組みを理解してみましょう。
事例:小売店の複式簿記
売上の記録
商品Aの売上額が20,000円で、顧客から現金で支払われた。
借方 | 貸方 |
現金(資産勘定):20,000円 | 売上(収益勘定):20,000円 |
この記録により、商品Aの売上として20,000円の収益が生まれ、同じ金額が現金として入金されたことが分かります。
仕入れの記録
代金が8,000円の新しい商品Bを仕入れた。支払いは後日行われる。
借方 | 貸方 |
仕入(費用勘定):8,000円 | 未払金(負債勘定):8,000円 |
この記録により、商品B仕入費用として8,000円の支出が生じたことと、同額の未払金が発生したことが分かります。
このように複式簿記では、取引ごとに収支の対応を借方と貸方で記録するため、資金の流れや会計のバランスが正確に反映されます。
正確な会計記録を残すなら複式簿記
複式簿記は、正確性と情報提供において優れた会計方法とされています。複式簿記がなぜ正確な会計記録を残す上で有利なのか、その理由を見てみましょう。
詳細な内訳
複式簿記は取引ごとに少なくとも二つの勘定科目に記入されます。このため、取引の詳細な内訳や勘定科目の関連性が明確になり、利益や資金の動向を正確に把握できます。
借方と貸方の対応
複式簿記では、取引における借方と貸方の対応を正確に記録します。このため、会計のつじつまが合い、間違った計算や記入ミスを排除ができるため、データの信頼性が高まります。
複式簿記は確定申告の控除で必要になる
企業を経営する際には、収入や支出などの会計情報を正確に記録し、確定申告を行わなければなりません。
確定申告で控除を適用する場合、正規の簿記の原則(一般的に複式簿記)により記帳していることが要件となっています。
複式簿記の採用が、確定申告の控除要件になっている理由は以下の通りです。
控除の正当性
複式簿記によって収入と支出の詳細な内訳が明確になるため、控除の正当性を証明する材料となります。特定の経費が収入とどのように関連しているかが分かるため、控除の妥当性を裏付けることが可能です。
税務調査対応
複式簿記によって提供される正確な情報は、税務調査対応時に有用です。税務当局が詳細な情報を求める場合、複式簿記の記録が正確な情報提供を支援します。
複式簿記に関する知識
複式簿記を理解するためには、基本的な会計ルールについての知識が必要です。ここでは、以下の内容について説明します。
- 貸借対照表との関係
- 借方と貸方について
貸借対照表との関係
貸借対照表(バランスシート)は、複式簿記の情報を要約し、企業の財政状態を示す重要な財務諸表です。複式簿記と貸借対照表との関係を見てみましょう。
資産と負債の記録
複式簿記によって、資産の科目は借方に、負債の科目は貸方に記入します。その結果、貸借対照表の資産と負債の状況が適切に反映されます。
純資産の計算
複式簿記において、資産と負債の差額が純資産を表すことになります。これは貸借対照表の純資産項目と一致します。
貸借対照表の作成
借方と貸方の情報が正しく記入された複式簿記をもとに、資産、負債、純資産の各科目の金額が計算され、バランスが取れた貸借対照表が作成されます。
借方と貸方について
複式簿記における借方と貸方は、会計取引を正確に記録し、会計のつじつまを合わせるための基本的な概念です。借方と貸方の意味と役割について見ていきましょう。
借方と貸方の基本
借方と貸方は、複式簿記における記録方法を示すものです。取引が発生した際に、どちらの側に勘定科目と金額を記入するかを決定します。
借方・貸方のそれぞれの記録内容は、以下の通りです。
記録内容 | |
借方 | 資産の増加、負債の減少、収益の減少、費用の増加 |
貸方 | 資産の減少、負債の増加、収益の増加、費用の減少 |
会計のつじつまを合わせる
借方と貸方は、会計のつじつまを合わせるために使用されます。つまり、ある勘定科目に金額を記入する際には、対応する別の勘定科目にも同じ金額を記入する必要があるからです。
複式簿記の記帳例
ここでは、具体的な取引の記帳例を通じて、複式簿記の実際の動きを理解してみましょう。
取引例:商品の販売
取引内容:A商店が商品をB企業に販売し、売上代金を現金で受け取った。
売却価格:10,000円
複式簿記の記帳例:
借方 | 貸方 |
現金(資産勘定):10,000円 | 売上(収益勘定):10,000円 |
取引例:経費の支払い
取引内容:C商店がオフィス賃料を振込で支払った。
支払額:5,000円
複式簿記の記帳例:
借方 | 貸方 |
賃料(費用勘定):5,000円 | 預金(資産勘定):5,000円 |
上記の記帳例の通り、取引ごとに借方と貸方に金額を記入することで、会計のつじつまを合わせます。
取引内容とその対応関係を正確に記録することで、企業の収益や資金の動向を正確に把握できます。
複式簿記でつける帳簿の種類
複式簿記では複数の帳簿が使用されます。帳簿は大きく「主要簿」と「補助簿」に分けられます。
主要簿とは
主要簿の役割と種類について見ていきましょう。
主要簿の役割
主要簿は、複式簿記において会計データを管理し、会計情報を体系的に追跡・分析するための基幹的な帳簿です。
企業の収支、資産の変動、負債の状況などが明確になり、経営者や投資家は合理的な判断を行うための情報を得られます。
主要簿の種類
主要簿には「仕訳帳」と「総勘定元帳」の2種類があります。
主要簿の種類 | 内容 |
仕訳帳 | 取引の発生に伴って行われる仕訳を記録する帳簿。借方と貸方の対応が正確に記され、元帳に反映される前段階を記録する。 |
総勘定元帳 | 個々の勘定科目ごとに取引内容を詳細に記録する帳簿。資産、負債、収益、費用などの勘定科目ごとに存在し、取引ごとの詳細な内訳を記載する。 |
主要簿の連携
取引が発生すると仕訳帳に仕訳が記入され、その後、仕訳帳のデータをもとに総勘定元帳に詳細な内訳が反映されます。
主要簿の連携によって、会計データの正確な記録と集計が行われ、財務情報の信頼性が確保できます。
補助簿とは
補助簿の役割と主要な種類について見ていきましょう。
補助簿の役割
補助簿は、特定の項目や取引に関する詳細な情報を追跡し、主要簿に記載された情報を補完する役割を果たします。
たとえば、主要簿の総勘定元帳には複数の取引がまとめて記録されます。これを補助簿に分割して個別の取引を詳細に管理することで、必要な情報に素早くアクセスできるようになります。
補助簿の種類
補助簿にはさまざまな種類がありますが、主なものを以下に示します。
補助簿の種類 | 内容 |
固定資産台帳 | 企業が所有する固定資産(建物、機械装置など)の詳細な情報を記録する帳簿。固定資産の取得価格、耐用年数、減価償却額などを管理する。 |
売掛金台帳 | 顧客ごとの売掛金(未収金)を記録する帳簿。売掛金請求書を発行し、支払い状況を管理する。 |
給与台帳 | 従業員の給与や手当、控除などの詳細な情報を記録する帳簿。給与支払の計算や税務申告などに利用する。 |
補助簿の連携
主要簿と同様に、補助簿も連携して使用されます。補助簿は、特定の項目や取引に関する詳細な情報を提供し、会計データの正確な管理と追跡を可能にします。
複式簿記のメリット
複式簿記の主なメリットをくわしく説明します。
- 正確な財務情報
- 詳細な内部管理
- 財務諸表の信頼性向上
正確な財務情報
複式簿記によって、正確な財務情報が得られ、企業の収益や資産・負債の変動などを精密に把握することが可能です。経営者や投資家は正確な情報に基づいて意思決定を行うことができ、業績評価や経営方針の策定に活用できます。
詳細な内部管理
特定の勘定科目や取引に関する補助簿を活用することで、企業のさまざまな内部を詳細に追跡・分析ができます。この詳細な内部情報は、経営の効率化や問題の早期発見に役立ちます。
財務諸表の信頼性向上
複式簿記は正確な会計情報を提供し、財務諸表の信頼性を向上させます。信頼性の高い財務報告は、投資家や金融機関との信頼関係を築く上で重要です。
複式簿記のデメリット
複式簿記の主なデメリットをくわしく説明します。
- 複雑さと学習コスト
- 手間と時間
- 専門知識の要求
複雑さと学習コスト
複式簿記は取引ごとに借方と貸方に金額を記入するため、一見すると複雑な手続きが必要です。新たに導入する際には、従業員や経営者が複式簿記の基本的な原則や記帳方法を学ぶ必要があります。
手間と時間
複式簿記は主要簿や補助簿など、複数の帳簿を同時に管理する必要があります。取引ごとに借方と貸方の対応を記録し、それを適切な帳簿に反映させるため、手間と時間がかかることがあります。
専門知識の要求
複式簿記を適切に行うためには、会計の専門的な知識と技術が求められます。経験の浅い従業員にとっては、誤った記録や理解の誤解が起きる可能性があります。
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まとめ
この記事では、複式簿記の基本的な概念や特徴、メリット、デメリットについてくわしく解説しました。
複式簿記は、正確な会計情報を提供し、企業の収益や資産・負債の状況を正確に把握するための重要な手法です。
経営者や投資家、税務当局などが企業の正確な情報を得るために、複式簿記は活用されていることが、お分かりいただけたでしょう。