為替手形と約束手形は、日常のビジネス取引において頻繁に耳にする言葉ですが、実際の違いやそれぞれの特徴を正確に理解している人は少ないかもしれません。
為替手形とは、3者間でのお金のやり取りを円滑にするための証書であり、約束手形は2者間の取引を明確にするためのものです。
為替手形と約束手形は、取引の安全性を保障するための重要なツールとして利用されています。
しかし、為替手形を利用する際には、いくつかの注意点が存在します。
不渡りのリスクや印紙税の問題、さらには現金化の難しさなど、知っておくべきポイントが多々あるので、利用の際には注意が必要です。
本記事では、為替手形と約束手形の基本的な違いから、為替手形を使用する際の注意点までを詳しく解説します。
取引の安全性を高めスムーズなビジネスを実現するための知識として、ぜひ参考にしてください。
目次
為替手形の基本知識
為替手形は、金銭の取引を行う際に使用される特定の証書の一つです。
為替手形は、3者間でのお金のやり取りを円滑に進めるためのツールとして利用されます。
具体的には、手形を発行する振出人が、支払人に対して一定の金額を支払うように依頼し、その代わりに受取人がその金額を受け取る形での取引が行われます。
基本的に、手形とは「○月○日に指定の金額を支払う」という約束を文書化したものです。
支払いのために約束した証書が、支払いの確実性を高め、取引の安全性を保障する役割を果たします。
為替手形に関与する主要な3つの役割を持つ人物は、振出人(または差出人、手形の作成者)、支払人(または引受人、名宛人)、そして受取人(指図人)です。振出人は手形を作成する者、支払人はその金額を支払う者、受取人はその金額を受け取る者としての役割を果たします。
為替手形の取引の流れを簡単に説明すると、まずA社(受取人)がB社(振出人)に商品やサービスを提供し、B社が支払義務を持つ状態となります。
B社は商品やサービスを受け取った対価として支払義務が生じるので、何らかの手段で支払いを行わなければなりません。
そこで支払い方法として為替手形を発行し、A社は手形をもとにC社(支払人)に取引の依頼を行います。
最終的にC社がA社に対して金額を支払い、取引は完了となります。
為替手形は複雑な取引をスムーズに進めるための重要なツールとして、多くの企業や個人に利用されているものです。
正確な知識と取り扱い方法を理解することで、安全かつ効率的な取引を実現することができます。
為替手形の種類は3つ
為替手形は取引の形態や関わる主体によって3つの異なる種類に分けられます。
3つの手形は金銭のやり取りや取引の流れにおいて独自の特徴を持ち、それぞれのビジネスシーンで利用されているものです。
以下、それぞれの為替手形の種類について詳しく解説します。
他人宛為替手形
通常、為替手形という場合、多くの人が思い浮かべるのが「他人宛為替手形」です。
他人宛為替手形は、振出人、支払人、受取人の間で取引が行われるものです。
具体的には振出人が商品やサービスを提供し、代金として為替手形を発行します。
為替手形の発行後、受取人が支払人に対して代金の支払いを依頼する形となります。
他人宛為替手形は、3者が関わる取引をスムーズに進めていくための一つの手段として活用されるのが一般的です。
自己受為替手形
自己受為替手形は、振出人と受取人が同一の人物または組織であるような特殊な為替手形のことをいいます。
自己受為替手形は、実際には2者間の取引となるため、為替手形の中では少し異色ともいえる存在です。
とくに、貿易のような業界で、確実な金銭の回収を目的として使用されることが大半です。
自己宛為替手形
自己宛為替手形は、手形の振出人と支払人が同一である為替手形のことを言います。
自己宛為替手形は、主に遠隔地にある支店や関連会社との間での取引において、本店が支払いを代行する際などに利用されることが一般的です。
自己宛為替手形も、実質的には2者間の取引となるため、取引の流れや管理がシンプルになるメリットがあります。
為替手形と約束手形の違い
為替手形と約束手形は金銭の取引に関連する証書として使用されるものの、性質や利用されるシチュエーションにおいて顕著な違いがあります。
為替手形と約束手形の手形の違いを正確に理解することは、ビジネスの現場での取引を円滑に進めるために不可欠です。
以下では、それぞれの特徴と違いについて詳しく解説します。
利用する取引が違う
為替手形は、主に3者間の取引において使用される証書です。
振出人が商品やサービスを提供した後、受取人に対して支払いを依頼する形で利用されます。
一方、約束手形は2者間の取引を前提とした証書で、振出人が受取人に対して特定の期日までに指定の金額を支払うことを約束するものです。
約束手形は、その名の通り「約束」を文書化したもので、為替手形よりもシンプルな取引形態を持っています。
当事者の呼称が異なる
為替手形と約束手形の間で、関与する当事者の呼び名にも違いが見られます。
為替手形においては、手形を振り出す者を「振出人」と呼び、支払いを行う者を「支払人」又は「名宛人」と称し、そして代金を受け取る者を「受取人」又は「指図人」と呼ぶことが一般的です。
一方、約束手形では、手形を振り出し、同時に支払いも行う者を「振出人」と呼び、代金を受け取る者を「受取人」又は「名宛人」と称します。
約束手形においては「指図人」という概念は裏書きなどをしなければ存在しないため、この点も注意が必要です。
手形取引のメリット
手形取引は、ビジネスの現場での金銭のやり取りを円滑に進めるための一つの方法として広く採用されています。
手形を使った取引には、いくつかのメリットがあり、多くの企業が為替手形や約束手形を活用しています。
以下では、手形取引の主なメリットについて、詳しくご紹介します。
資金繰りのコントロールをしやすい
手形取引を活用することで、企業は資金の流れを効果的にコントロールすることができます。
為替手形のような3者間の取引を例にとると、振出人が受取人と支払人の間で資金のやり取りを調整することが可能です。
たとえば、A社が商品をB社に提供し、B社がその代金として為替手形をA社に渡す場面を考えてみましょう。
為替手形をA社がC社に提示し、C社が代金を支払うことで、B社のA社への支払い義務が消滅します。
このような流れを通じて、B社は資金の出入りのタイミングを調整し、短期的な資金不足を避けることができます。
さらに、手形取引を活用することで企業は資金の流れを予測しやすくなるのも大きなメリットです。
手形の支払期日や金額が明確になるため、将来の資金繰りを計画しやすくなります。
資金繰りの計画により、企業は突発的な資金不足を避けるだけでなく、効率的な資金運用を実現し、経営の安定性を高めることができるのです。
支払利息を払わなくて済む
金融機関を介しての融資やローンを利用する際、多くの場合、利息が発生し、それが企業のコストとして増加します。しかし、手形取引の利用により、追加的な負担を大幅に軽減することが可能です。
具体的には、手形はあくまで「特定の期日までに指定された金額を支払う」約束を文書化したものであり、その取引自体に利息が発生することはありません。
例を挙げると、A社がB社に商品を提供し、その代金として100万円の手形を受け取ったとします。
手形の支払期日が3か月あとであれば、A社は3か月間、100万円を受け取る権利を持ち続けますが、その間に利息が発生することはありません。
一方、もしA社が金融機関から100万円を3か月間借り入れた場合、利息として数千円から数万円が発生する可能性があります。
審査に通ったという社会的信用を得られる
手形取引の際、その取引の信用性を評価するために銀行や金融機関が審査を行います。
審査を無事に通過すれば、企業が一定の信用基準を満たしていることの証です。
公的な機関からの評価は、企業の信用力を示すものとして、非常に価値が高いと言えます。
たとえば、A社が手形取引の審査を銀行から受け、その結果として審査に合格した場合、A社が金融機関からの信用を得ている証明となる場合があります。
信用情報は、A社が新たな取引先やビジネスパートナーを探している際、信用情報として非常に有効です。
B社やC社といった他の企業がA社との取引を検討する際、A社が銀行の審査を通過している情報は、A社の信頼性や経営の安定性を示すものとして、大きなアドバンテージとなります。
また、信用情報は、企業間の取引だけでなく、投資家やステークホルダーに対してもポジティブな影響をもたらす可能性がある点にも注意してください。
信用が高まることで、企業の資金調達の際の条件が有利になることや、新たなビジネスの機会を掴むための足がかりとなることも考えられます。
手形取引のデメリット
手形取引は資金繰りの最適化や信用の確保など、多くのメリットを持つ一方で、いくつかのデメリットも存在します。
デメリットを理解し、適切に対処することが、手形取引を円滑に進めるための鍵となります。
不渡りを出すと「不渡り処分」を受ける
手形取引において、もっとも避けるべきリスクの一つが「不渡り」です。
不渡りは、手形の支払期日に指定された金額を支払えない状態を指します。
不渡りが発生すると、その事実は金融機関や信用情報機関に記録され、「不渡り処分」として取り扱われます。
不渡り処分は、企業の信用力を大きく損なうものであり、今後の取引や資金調達に大きな影響を及ぼす可能性があるため絶対に避けなければなりません。
たとえば、A社が手形の支払いを怠った場合、その情報はB社やC社などの取引先にも伝わり、A社との取引を避ける動きが生じることも考えられます。
印紙税がかかる
手形取引を行う際には、手形の金額に応じて印紙税が発生します。
印紙税は、手形を発行する際に必要となる経費の一部として考えられ、取引のコストとして捉える必要があります。
印紙税は収入印紙を通じて支払うので、事前に収入印紙を購入しておかなければなりません。
たとえば、100万円の手形を発行する場合、その金額に応じた印紙を購入し、手形に貼り付ける必要があります。
追加的なコストは、とくに頻繁に手形取引を行う企業にとっては、無視できない経費となることが考えられます。
為替手形を利用する際の注意点
為替手形は、資金繰りや取引の効率化に役立つツールとして多くの企業に利用されています。
しかし、その利用に際しては、いくつかの注意点を把握しておくことが必要です。
適切な知識と理解を持って取引を進めることで、リスクを最小限に抑えることができます
不渡りを出さないようにする
為替手形の取引において、もっとも警戒すべき事態は「不渡り」の発生です。
不渡りとは、手形の支払期日に、約束された金額を支払えない状態を指します。
このような状況が生じると、企業の信用が大きく損なわれるだけでなく、信用情報機関にもその記録が残るので避けるべきです。
たとえば、A社がB社に対して商品を提供し、代わりに為替手形を受け取った場合、B社が期日に金額を支払わないと、A社は不渡りのリスクを負うことになります。
さらに、不渡りの情報は信用情報機関に記録され、将来的にB社が他の企業との取引を行う際に、信用の低下として影響する可能性があります。
今後、手形を利用した取引ができなくなり、資金繰りに大きな影響を与えるため絶対に避けるべきです。
リスクを避けるためにも、期日を厳守し、確実に支払いを行わなければなりません。
また、不渡りのリスクを低減するためには、適切な資金繰りの計画や、為替手形の発行前の十分な調査が不可欠です。
現金化できないことがある
為替手形は、一定の期日までに支払うことを約束する証書であるため、即座に現金化することが難しい場合があります。
とくに、取引の信用度が低い場合や、金融機関が手形の現金化を受け付けない場合など、現金化の障壁が生じることが考えられるので注意が必要です。
例として、A社がB社から為替手形を受け取ったとします。
A社が資金を必要としている場合、手形を金融機関に持ち込んで現金化を試みることが可能です。
しかし、B社の信用状況が不安定であったり、手形の内容に何らかの問題があると判断されると、金融機関は現金化を拒否するケースがあります。
このような状況は、とくに中小企業などの資金繰りが厳しい場合には大きな影響を及ぼす可能性があるため、為替手形を取引の一部として利用する際には、そのリスクを十分に理解し、適切な対策を講じることが重要です。
利子や手数料が発生することもある
為替手形を現金化する際や、一部の金融機関での取引において、利子や手数料が発生することがあります。
追加的なコストは、取引の全体的なコストを増加させる要因となるため、事前に確認しておくことが重要です。
たとえば、A社が為替手形を持ち込んで金融機関Bから現金化を依頼した場合、Bがその手形の額面よりも少ない金額をA社に支払い、差額を利子や手数料として取ることが考えられます。
このような場合、A社は手形の額面全額を受け取ることができないため、その差額を損失として計上しなければなりません。
また、金融機関によっては、手形の取り扱いに関する手数料を別途請求することもあります。
手数料は、とくに頻繁に手形取引を行う企業にとっては無視できないものです。
取引先の金融機関や現金化のサービスを利用する際には、事前に詳細な情報を収集し、コストを最小限に抑える方法を検討することが求められます。
手形の金額に応じた印紙税がかかる
為替手形を発行する際、その金額に応じて印紙税を納めなければなりません。
印紙税は、取引のコストとして考慮する必要があり、適切な金額の印紙を手形に貼り付けることが求められます。
例として、10万円の為替手形を発行する場合、その金額に応じた印紙税額が定められており、指定された税額を下回る印紙を貼ると、不足分に対して罰金が科される可能性があります。
また、印紙税を適切に処理しないと、法的なトラブルの原因となる可能性もあるため、注意が必要です。
とくに大量の手形取引を行う企業や、高額な手形を頻繁に取り扱う場合、印紙税の管理や計算ミスは大きな損失を招く可能性があるので、十分な注意と管理体制の整備が求められます。
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まとめ
為替手形と約束手形は両者ともに取引の際に使用される証書ですが、その性質や利用方法には大きな違いがある点に注意が必要です。
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本記事を通じて、為替手形と約束手形の基本的な知識と利用時の注意点を理解し、安全かつ効果的な取引を行うための参考としてください。