保険は、保険料の支払いを通じて保険契約者がリスクを共有し、保険金の受け取りによって予期しない損失や被害を補償する仕組みです。
そのため企業や個人事業主は、保険料の支払いや保険金の受け取りについて、正確な勘定科目の選択と適切な会計処理をしなければなりません。
本記事では、保険の会計処理についてくわしく解説します。具体的なケースごとに仕訳例についてもご説明しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
保険料の勘定科目は?
保険料や保険金の受け取りが、企業の収支にどのように影響するかを正確に追跡するためには、正しい勘定科目で処理しなければなりません。
はじめに、企業が「保険料を支払う時」と「保険金を受け取る時」の勘定科目について、確認してみましょう。
保険料を支払う時の勘定科目
保険料を支払う時の勘定科目は「保険料」や「保険積立金」、「支払保険料」です。
企業が保険契約を締結し、保険会社に対して支払う保険料を記録します。保険料は通常、年度ごとに支払われますが、ケースによっては、複数年分をまとめて支払うこともあります。
保険金を受け取る時の勘定科目
保険金を受け取る時の勘定科目は「雑収入」です。
企業が保険事故や損害によって、保険金を受け取った際に記録します。保険金は、損害の程度や契約条件に基づいて支払われます。
保険料の具体例
一口に保険料といっても、保険は生命保険と損害保険に分けられ、さらに保険の内容によって細かく分類されます。
支払う保険料は、契約者の年齢、リスクの発生頻度、保険金額などさまざまな要素によって決まるため、一概に安ければいいというものではありません。
ここからは、具体的な保険の内容についてご紹介します。
生命保険
生命保険には、主に「定期保険」「終身保険」「養老保険」という3つのタイプがあります。以下にそれぞれの保険の特徴をご説明します。
定期保険
定期保険は、一定期間のみ保障を提供するタイプの生命保険です。契約期間が設定されており、契約期間中に契約者が死亡した場合には死亡保険金が受け取れます。契約期間終了時に生存している場合、保険金は支払われません。
定期保険は、比較的低い保険料で高額の保障を得ることができるため、一時的な保障のみ必要な場合に適しています。
終身保険
終身保険は、契約期間に制限がなく、保険料の支払いが継続される限り保障が提供されるタイプの生命保険です。終身保険では、契約者が死亡した場合に死亡保険金が受け取れますが、保険契約の解約時には解約返戻金が支払われます。
終身保険は、生涯にわたって保障を受けたい場合や、将来のために貯蓄機能を備えた保険を望む場合に適しています。
養老保険
養老保険は、定期保険と終身保険の特徴を兼ねた保険です。契約者は一定の期間、保険料を支払い、契約者が死亡した場合に死亡保険金が受け取れます。契約期間が満了になったときは、満期保険金が受け取れます。
養老保険は、一定期間の保障と将来の貯蓄の両方の確保を目指す場合に適しています。
損害保険
損害保険は、さまざまなリスクや損害に対して保障を提供する保険の一種です。実際には多くの種類の損害保険が存在します。
以下に、一般的な損害保険の代表的な種類をいくつかご紹介します。
自動車保険
自動車保険は、車両の所有者や運転者が自動車事故による損害や責任に対して保障を受けるための保険です。自動車保険には、対物・対人賠償責任保険や車両保険、自賠責保険、任意保険などのさまざまな種類があります。
火災保険
火災保険は、住宅やその中の財産に対する損害やリスクに対して保障を提供する保険です。
火災保険には、建物保険と家財保険が含まれることが一般的であり、保険料は保険金額やリスクの評価に基づいて計算されます。
賠償責任保険
賠償責任保険は、第三者に対して負うこととなった賠償責任に対して保障を提供する保険です。賠償責任保険は、責任を広範囲にカバーするため、保有資産や将来の収入を守るために重要な役割を果たします。
保険料を支払う場合の勘定科目と仕訳例
保険料を支払う場合の会計処理は、個人事業主の場合と法人の場合とで異なります。以下に、それぞれのケースごとの勘定科目や仕訳例をくわしくご説明します。
個人事業主の場合
個人事業主は、事業と私用とを分けて管理する必要があります。保険料の支払いを経費として処理できるのは、事業として支出した場合のみです。
個人事業主が私用で支払った場合の支出は、その金額を「事業主貸」の勘定科目に記録します。「事業主貸」を使用するのは、個人事業主の個人資産と事業の資産を区別するためです。
仕訳例1)自宅兼事務所の火災保険として、代金8万円を振り込んだ。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
保険料 事業主貸 | 40,000円 40,000円 | 普通預金 | 80,000円 | 事務所火災保険料 |
自宅兼事務所の保険料は、家事按分して半額の4万円を「保険料」に、残りの4万円を「事業主貸」に計上します。
個人事業主は自身で事業を経営するため、家事と事業の両方をこなさなければならない場合があります。家事按分とは、自宅兼事務所の火災保険料など、家事と事業の両方に共通する経費を按分することで、経費を算出する方法です。
法人の場合
法人が保険料を支払う場合の会計処理について、以下の4つのパターン別に具体例を用いてご説明します。
- 定期保険(生命保険)
- 終身保険(生命保険)
- 養老保険(生命保険)
- 火災保険(損害保険)
定期保険(生命保険)
定期保険は、一定期間の保障を提供する保険です。契約期間中に保険金が支払われる条件が発生した場合にのみ支払われます。
仕訳例2)従業員の定期保険として、代金30万円を振り込んだ。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
保険料 | 300,000円 | 普通預金 | 300,000円 | 従業員定期保険料 |
定期保険は、全額「保険料」に計上します。
終身保険(生命保険)
終身保険は契約期間に制限がなく、保険料の支払いが継続される限り保障を提供する保険です。契約者が死亡した場合に死亡保険金が受け取れます。
仕訳例3)従業員の終身保険として、代金60万円を振り込んだ。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
保険積立金 | 600,000円 | 普通預金 | 600,000円 | 従業員終身保険料 |
終身保険の死亡保険金は、受取人が法人である場合に全額「保険積立金」(資産科目)に計上します。受取人が従業員の遺族である場合は「給料」となります。
養老保険(生命保険)
養老保険は一定の期間、保険料を支払い、契約期間終了後に満期保険金を受け取れる保険です。
仕訳例4)従業員の養老保険として、代金40万円を振り込んだ。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
保険料 保険積立金 | 200,000円 200,000円 | 普通預金 | 400,000円 | 従業員養老保険料 |
死亡保険金の受取人は従業員の遺族とし、満期保険金の受取人が法人の場合は、半額を「保険料」と「保険積立金」に計上します。
火災保険(損害保険)
火災保険は、住宅やその中の財産に対する損害に対して保障を提供する保険です。一般的に、数年分をまとめて支払うことがほとんどです。
仕訳例5-1)自社ビルの火災保険として、2年分の代金14万円を振り込んだ。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
保険料 前払費用 | 70,000円 70,000円 | 普通預金 | 140,000円 | 自社ビル火災保険料 |
2年分の火災保険料を払った場合は、当年分(140,000÷2=70,000)の7万円を「保険料」に計上します。翌年分は「前払費用」として処理します。
仕訳例5-2)翌年度になって、本年度分の保険料を前払費用から振り替えた。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
保険料 | 70,000円 | 前払費用 | 70,000円 | 自社ビル火災保険料前払費用振替 |
「前払費用」は資産科目であり、翌年度に1年分の保険料を経費に計上します。
保険金を受け取る場合の勘定科目と仕訳例
ここからは、保険金を受け取った場合の勘定科目と仕訳例について、同じく個人事業主の場合と法人の場合とに分けてご説明します。
個人事業主の場合
個人事業主が私用で保険契約を結び、保険金が支払われた場合は経理処理を行いません。上述したように、事業として保険料を支払った場合のみ経理処理をします。その場合の処理は、以下でご説明する法人の場合と同様です。
法人の場合
法人が保険金を受け取った場合の会計処理について、以下の4つのパターン別に具体例を用いてご説明します。
- 定期保険(生命保険)
- 終身保険(生命保険)
- 養老保険(生命保険)
- 火災保険(損害保険)
定期保険(生命保険)
仕訳例6)従業員の定期保険について、死亡保険金2,000万円を受け取った。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
普通預金 | 20,000,000円 | 雑収入 | 20,000,000円 | 定期保険死亡保険金 |
定期保険の死亡保険金は、全額「雑収入」に計上します。
終身保険(生命保険)
仕訳例7)従業員の終身保険について、死亡保険金1,200万円を受け取った。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
普通預金 | 12,000,000円 | 保険積立金 雑収入 | 9,000,000円 3,000,000円 | 保険積立金取崩 |
保険料支払い時に「保険積立金」に計上した金額を全額取り崩します。残額は「雑収入」となります。
養老保険(生命保険)
仕訳例8)従業員の養老保険について、死亡保険金1,500万円を受け取った。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
普通預金 | 15,000,000円 | 保険積立金 雑収入 | 10,000,000円 5,000,000円 | 保険積立金取崩 養老保険死亡保険金 |
養老保険の保険金受取時の仕訳は、終身保険と同様です。
火災保険(損害保険)
仕訳例9)自社ビルの火災保険について、落雷被害の保険金として80万円を受け取った。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
普通預金 | 800,000円 | 雑収入 | 800,000円 | 落雷被害保険金 |
火災保険の落雷被害保険金は、全額「雑収入」に計上します。
解約返戻金を受け取る場合の勘定科目と仕訳例
解約返戻金とは、保険契約を解約する際に、保険会社から保険料の一部が返金される金額のことです。解約返戻金は、解約時点での保険契約の価値や支払われた保険料に基づいて計算されます。
以下に「保険積立金がある場合」と「保険積立金がない場合」の処理について、それぞれご説明します。
保険積立金がある場合
保険積立金は、保険契約が解約されたときに、これまで計上していた額を資産から取り崩す処理を行います。
解約返戻金は、解約時点によって金額が変わってきます。解約返戻金が、保険積立金より上回る場合と下回る場合とで、会計処理が異なるので注意が必要です。
解約返戻金が保険積立金より上回る場合
仕訳例8)従業員の養老保険を解約し、解約返戻金900万円を受け取った。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
普通預金 | 9,000,000円 | 保険積立金 雑収入 | 7,000,000円 2,000,000円 | 保険積立金取崩 養老保険解約返戻金 |
保険積立金が700万円ある場合は、全額を取り崩します。解約返戻金が保険積立金より上回る場合は、残額を「雑収入」に計上します。
解約返戻金が保険積立金より下回る場合
仕訳例9)従業員の養老保険を解約し、解約返戻金600万円を受け取った。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
普通預金 雑損失 | 6,000,000円 1,000,000円 | 保険積立金 | 7,000,000円 | 保険積立金取崩 |
上記と同様に保険積立金が700万円ある場合は、全額を取り崩します。解約返戻金が保険積立金より下回る場合は、残額を「雑損失」に計上します。
保険積立金がない場合
解約返戻金がない保険は、契約期間や支払い条件があらかじめ決まっており、契約期間が終了するまで継続されるため、解約返戻金がありません。
解約返戻金がない保険は保険積立金を計上していないため、入金額をすべて「雑収入」で処理します。
仕訳例10)従業員の定期保険を解約し、最低解約返戻金3万円を受け取った。定期保険のため、保険積立金は計上していない。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
普通預金 | 30,000円 | 雑収入 | 30,000円 | 養老保険解約返戻金 |
最低解約返戻金は、全額「雑収入」に計上します。
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まとめ
この記事では、企業や個人事業主が支払う保険料や受け取る保険金についてくわしく解説しました。
企業や個人事業主が保険を活用することは、リスク管理の重要な要素であり、万一の事態に備えるための手段です。
保険金の受け取りは予期せず発生するため、万一のときに、どのような会計処理をしたら良いか分からなくなるかもしれません。
正確な会計処理と適切な勘定科目の選択は、財務の信頼性を高めるために不可欠です。この記事を参考にして、正確な会計処理を行えるようにしておきましょう。