経年劣化に合わせて建物や機械などの資産価格を減らす減価償却。簿記3級では、定額法で計算し、「減価償却累計額」という勘定科目で仕訳します。この記事では、表やグラフでわかりやすく減価償却を解説します。
「減価償却のやり方がわからない」「減価償却の計算方法を知りたい」「減価償却の仕訳方法を知りたい」
上記のように、減価償却についてあまり理解できていないという方も多いのではないでしょうか?
減価償却は他の仕訳と計算方法が異なるため、難しいと感じる方も多いでしょう。しかし、一度仕組みを理解してしまえばきちんと解けるようになります。
そこで、この記事では減価償却の仕組み、計算方法、仕訳を、わかりやすく解説します。簿記検定の過去問題を参考に作成された例題にも、ぜひチャレンジしてみてください。
目次
減価償却とは
減価償却とは、経年劣化による資産価値の減少にあわせて、有形固定資産の帳簿価額を減少させる作業のことです。
たいていの場合、モノは使うと傷みます。色あせたり、変形したりしてやがて寿命をむかえるでしょう。企業が仕事に使用する建物や機械や車なども、使っているうちに、傷ついたり性能が落ちたりします。
企業の所有する建物や機械、車などは、有形固定資産として会社の資産に計上されているため、経年劣化で減価(価値が減る)したら、その分帳簿価格も減らす必要があるのです。
ちなみに、時間が経っても価値が変わらない土地などは例外で、減価償却の必要がありません。
減価償却は決算時に行い、勘定科目「減価償却費」として損益計算書や精算表などの決算資料に記載されます。
減価償却の仕訳方法には直接法と間接法があり、簿記3級は間接法で出題されます。
- 直接法・・・固定資産(車両運搬具、備品、機械設備など)の価格を直接減らす
〈仕訳例〉
減価償却費 ○○○ | 車両運搬具 ○○○ |
- 間接法・・・固定資産を減らす代わりに「減価償却累計額」という資産科目を使う
〈仕訳例〉
減価償却費 ○○○ | 減価償却累計額 ○○○ |
減価償却の計算方法(定額法)
減価償却の計算方法は定額法や定率法など複数あり、簿記3級では定額法が出題されます。定額法は、毎期同じ金額(定額)を減価償却していく方法です。
定額法による減価償却の計算方法は以下になります。
【定額法の減価償却の計算式】
減価償却費 = (取得原価 − 残存価格)÷ 耐用年数
- 取得原価とは・・・固定資産そのものの代金+不随費用(手数料など)の合計金額
- 耐用年数とは・・・固定資産の使える年数を合理的に見積もったもの
- 残存価格とは※・・・耐用年数を使い切った固定資産の処分価格のこと
期首から所有している場合
定額法の減価償却は、期首から保有している場合と期中で取得した場合で、計算方法が異なります。まずは、期首から所有している場合の計算方法を解説します。
期首から所有している場合は、基本的な定額法の計算式【減価償却費 =(取得原価 − 残存価格)÷ 耐用年数】で計算が可能です。
【例題】
期末(3月31日)を迎えた。期首4月1日に購入した以下トラックの減価償却をおこなう。なお減価償却の方法は定額法であり、間接法で仕訳すること。
- 取得原価15,000円
- 耐用年数10年
- 残存価額は取得原価の10%
【解説】
{取得原価15,000円 − 残存価格(15,000円×10%)}÷ 耐用年数10年
= {15,000 - (15,000×0.10)} ÷ 10
= (15,000 - 1,500)÷ 10
= 13,500 ÷ 10
= 1,350(円)
【解答】
減価償却費 1,350 | 減価償却累計額 1,350 |
期中に取得した場合
期中に取得した有形固定資産の場合、取得した時点から期末までの減価償却費を月割計算で求める必要があります。
基本的な定額法の計算【減価償却費 =(取得原価−残存価格)÷ 耐用年数】× 利用月数 ÷ 12か月を計算します。
【例題】
期末(3月31日)を迎えた。期中7月1日に購入した以下トラックの減価償却をおこなう。なお減価償却の方法は定額法で、間接法で仕訳すること。
- 取得原価15,000円
- 耐用年数10年
- 残存価額は取得原価の10%
【解説】
利用月数は取得日7月1日〜期末3月31日までの9か月分となります。
{取得原価15,000円 − 残存価格(15,000円 × 10%)÷ 耐用年数10年}×(9か月 ÷ 12か月)
= {15,000 - (15,000 × 0.10)} ÷ 10 ×(9 ÷ 12)
= (15,000 - 1,500)÷ 10 × 0.75
= 13,500 ÷ 10 × 0.75
= 1,012.5
〈ポイント〉
1円未満の割り切れない端数が生じた場合は、その端数を切り上げます。1,012.5の端数の0.5は切り上げて、1,013です。
【解答】
減価償却費 1,013 | 減価償却累計額 1,013 |
償却率を使った計算方法
償却率とは、耐用年数に応じて定められた割合のことです。償却率を使用しても減価償却を計上できます。
定額法の償却率の計算方法は以下です。
【定額法の償却率の計算式】
1 ÷ 耐用年数 = 償却率
そして定額法を使った減価償却の計算式は以下になります。
【償却率を使った減価償却の計算式】
減価償却費 =(取得原価−残存価格)× 償却率
【例題】
期末を迎えた。以下の建物に対し定額法によって減価償却をおこなう。 なお減価償却の方法は定額法で、間接法で仕訳すること。
- 取得原価100,000円
- 耐用年数40年
- 残存価額は取得原価の10%
【解説】
{取得原価100,000 − 残存価格(100,000円 × 10%)}× 償却率(1 ÷ 耐用年数40年)
={100,000 −(100,000×0.10)}×(1÷40)
=(100,000−10,000)× 0.025
=90,000 × 0.025
=2,250
【解答】
減価償却費 2,250 | 減価償却累計額 2,250 |
減価償却する2つのメリット
減価償却が税法で定められているのは、減価償却にそれほどのメリットがあるからです。
減価償却をおこなう主なメリットは以下2つです。
- 費用と収益が対応する
- 資産がB/Sに残る
減価償却費は、収益と費用の発生タイミングを調節し、より正確に経営状況を決算書類に反映させる効果があります。さらに、適切に資産の保有状況を貸借対照表に反映する効果や耐用年数を通じて取得価額を損金(費用)に算入させる効果もあり、企業の信頼性や経営を陰ながら支えているのです。
減価償却の2つのメリットを、それぞれ詳しく解説します。
費用と収益が対応する
減価償却しないと、費用が実際より多く計上されてしまう可能性があるのです。
企業会計の重要な概念に「費用収益対応の原則」があります。収益が上がるのと同じタイミングで、その収益に関する費用も計上されるべきというものです。
減価償却は、収益の上がったタイミングと同時に費用の発生を認識し、耐用年数を通じて取得価額を損金(費用)に算入することで「費用収益対応の原則」を守る役割があります。
たとえば海運業の場合。平成4年度3月末に新たな500万円の船舶を購入し、購入費は平成4年度の費用として計上されました。しかし、この船舶が実際に海に出て仕事に使われるのは、4月以降、つまり来期の平成5年度からになります。
船舶の費用500万円は平成4年度に計上されるものの、船舶によって収益が発生するのは平成5年度〜です。
これでは、収益が上がるタイミングと費用の発生時期にズレが生じ、損益計算書の内容と実際の損益とでズレが発生します。損益計算書の正確性が下がってしまうのです。
毎期少しずつ減価償却をおこなうと、収益に関する費用と収益の発生を同時に認識でき、損益計算書の正確性を高める効果があります。
資産がB/Sに残る
減価償却は資金(現金)の支出がないため、その分資産が貸借対照用(B/S)に残ります。減価償却費は費用であっても、実際には資金(現金)の支出がありません。
たとえば、会社の所有ビルの資産価値が減っても会社の資金(現金)は減りませんし、社用車が古くなっても、会社の資金(現金)は減らないでしょう。
また、減税効果もあります。費用が発生すると収益が減り、収益が減ると、税金が減ります。減価償却費を計上すると税金を減らせるのです。
減価償却には、適切に資産の保有状況を貸借対照表に反映する効果と、年数を通じて取得価額を損金(費用)に算入する効果があります。
減価償却の定額法と定率法の2つ
減価償却の計算方法は、資産の種類によって定額法と定額法のどちらかに定められています。また、資産の種類ごとの法定償却方法(税法で定められた償却方法)は、所得税と法人税でも異なります。
資産の種類 | 所得税の償却方法 | 法人税の償却方法 |
建物 | 定額法 | 定額法 |
建物付属設備 | 定額法 | 定額法 |
建造物 | 定額法 | 定額法 |
機械装置 | 定額法 (申請によって定率法にも変更可) | 定率法(申請によって定額法にも変更可) |
車両運搬具 | 定額法(申請によって定率法にも変更可) | 定率法(申請によって定額法にも変更可) |
器具備品 | 定額法(申請によって定率法にも変更可) | 定率法(申請によって定額法にも変更可) |
ソフトウェア | 定額法 | 定額法 |
所得税の減価償却は原則として定額法に定められていますが、機械装置・車両運搬具・器具備品は、税務署への申請によって定率法に変更できます。
一方、法人税の減価償却は、機械装置・車両運搬具・器具備品は原則として定率法です。しかし、税務署への申請によって定額法にも変更できます。
参考:国税庁「No.5407 減価償却資産の償却方法の変更手続|国税庁 (nta.go.jp)」
簿記の減価償却に関する例題
簿記3級の過去問題を参考に作成された問題を紹介します。ぜひチャレンジしてみてください。
【減価償却の例題】
次の期末修正事項にもとづいて、決算整理仕訳をしなさい。
〈期末修正事項〉
建物に対して、残存価額はゼロ、耐用年数20年の定額法により減価償却をおこなう。なお、建物と建物減価償却累計額の期末残高はそれぞれ2,400,000 と1,440,000 である。
模範解答
(取得原価2,400,000円 − 残存価格0円)÷ 耐用年数20年
=2,400,00 ÷ 20
=120,000
〈仕訳〉
減価償却費 120,000 | 建物減価償却累計額 120,000 |
解説
(取得原価2,400,000円 − 残存価格0円)÷ 耐用年数20年 = 減価償却費120,000 円
※建物減価償却累計額の期末残高1,440,000の記載に注意
定額法の減価償却は「(取得原価−残存価格)÷ 耐用年数」で求められるため、この問題では、建物減価償却累計額の残高1,440,000は使用しません。簿記検定では、このような引っ掛け問題も出題されるため注意しましょう。
〈仕訳〉
減価償却費 120,000 | 建物減価償却累計額 120,000 |
期末修正事項から「建物減価償却累計額」を使用する間接法であることがわかります。借方(左側)に120,000円を「減価償却費」として記入し、貸方(右側)は「建物減価償却累計額」として仕訳しましょう。
また、償却率を使う場合は、以下の計算手順で解答を求められます。
1 ÷ 耐用年数20 = 償却率0.05
減価償却費2,400,000 × 償却率0.05 = 減価償却費120,000
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まとめ
この記事では、減価償却の仕組み、計算方法、仕訳をくわしく解説しました。
減価償却とは、経年劣化による資産価値の減少にあわせて、有形固定資産の帳簿価額を減少させる作業です。
減価償却の計算方法は、減価償却費 =(取得原価 − 残存価格)÷ 耐用年数(定額法の場合)です。
計算方法は主に定額法と定率法があり、簿記3級では毎期同じ金額を償却する定額法で出題されます。
仕訳方法は、直接法と間接法があり、簿記3級では「減価償却累計額」を貸方にする間接法で出題されます。
〈仕訳〉
減価償却費 ××× | 減価償却累計額 ××× |