繰越利益剰余金は、貸借対照表の純利益の部の勘定科目です。繰越利益剰余金を確認すれば、会社がどの程度の利益を積み上げているか把握できます。本記事では、繰越利益剰余金の役割や具体的な仕訳方法を解説します。会社の経理を担当している方や簿記の学習をしている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
繰越利益剰余金とは?
繰越利益剰余金は、会社が社内に留保している利益の一部です。今までの会社の利益の累積に、当期の利益や損失を加算して算出します。ただし、繰越利益剰余金を正しく理解するには、利益剰余金や利益準備金との関係性を抑えることが重要です。繰越利益剰余金について、詳しく解説します。
繰越利益剰余金は純資産の勘定科目の一つ
繰越利益剰余金は、純資産の勘定科目の一つです。繰越利益剰余金は利益のため、負債のような返済義務はありません。株主資本として計上し、純資産の部に計上します。貸借対照表の表示例は、以下図の通りです。
上図の通り、繰越利益剰余金は純資産の部に該当します。純資産の部は、基本的に「資本金」「資本剰余金」「利益剰余金」の大きく3つに分かれています。
繰越利益剰余金は利益剰余金を構成する
繰越利益剰余金は、利益剰余金を構成する勘定科目です。利益剰余金は会社が社内に留保している利益の総額で、利益準備金とその他利益剰余金に分別されます。さらに、その他利益剰余金は別途積立金と繰越利益剰余金に分かれます。
各勘定科目の関係性をまとめると以下のようになります。
利益剰余金=利益準備金+その他利益剰余金
その他利益剰余金=別途積立金+繰越利益剰余金
各勘定科目について解説します。
利益準備金
利益準備金は、将来発生しうる多額の支出や損害に備えるための財務基盤強化を目的とした勘定科目です。利益準備金は、会社法などにより積み立てが義務づけられています。
株主に配当をする際に、資本準備金と利益準備金の合計額が、資本金の四分の一に達していない場合、配当金額の10分の1を利益準備金として積み立てることが必要です。
例えば、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達していない会社が、株主に対して10万円の配当を実施する場合には、1万円を利益準備金として積み立てることが必要です。
その他利益剰余金
その他利益剰余金は、利益準備金以外の利益剰余金を指します。計算式は以下の通りです。
その他利益剰余金=利益剰余金ー利益準備金
その他利益剰余金は、任意積立金と繰越利益剰余金から構成されます。
任意積立金
任意積立金は、その他利益剰余金を構成する勘定科目の一つです。会社法で積み立てが義務づけられている利益準備金とは別に、会社が任意で利益の一部を積み立てる場合に利用します。
任意積立金は、目的別に勘定科目を変更します。よく使われる勘定科目は以下の通りです。
・別途積立金
利用目的を限定せずに積み立てるための勘定科目です。多くの企業で利用されています。
・配当積立金
業績が不振になった場合でも、株主への配当を維持できるように積み立てるための勘定科目です。
・役員退職積立金
役員が退職した際の退職金を事前に積み立てるための勘定科目です。
・修繕積立金
建物の修繕工事にかかる費用を積み立てる際に用いる勘定科目です。
繰越利益剰余金
繰越利益剰余金は、その他利益剰余金を構成する勘定科目の一つです。その他利益剰余金のうち、任意積立金として積み立てない額が繰越利益剰余金となります。繰越利益剰余金を求める計算式は、以下の通りです。
繰越利益剰余金=その他利益剰余金ー任意積立金
繰越利益剰余金は利益剰余金やその他利益剰余金と混合されることが多いですが、正確には役割や計算方法が異なるので注意しましょう。
繰越利益剰余金の仕訳
今まで、繰越利益剰余金の貸借対照表における立ち位置や、利益剰余金などとの関係性を解説してきました。ここからは、具体的な仕訳例を基に、繰越利益剰余金の仕訳方法を解説します。5つのケースを例に解説するので、仕訳の際の参考にしてみてください。
当期純利益を繰越利益剰余金に振り返る
まずは、1年間の当期純利益を繰越利益剰余金に振り分ける際の仕訳を解説します。年間の諸収益が1,000万円で諸費用が800万円、当期純利益が200万円の場合の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 |
損益 11,000,000 | 繰越利益剰余金 11,000,000 |
当期純利益を残したまま決算を終えることはできません。次年度期首の損益はゼロからスタートするため、期末の当期純利益は必ず繰越利益剰余金の一部を構成することになります。そのため当期純利益を繰越利益剰余金に振り替えて、純資産を増加させます。
当期純損失を繰越利益剰余金に振り返る
事業が黒字になることもあれば、赤字になることもあります。1年間の当期純損失を、繰越利益剰余金に振り分ける際の仕訳を解説します。年間の諸収益が800万円で諸費用が1,000万円、当期純損失が200万円の場合の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 |
繰越利益剰余金 11,000,000 | 損益 11,000,000 |
当期純利益を繰越利益剰余金に振り替えた際と同様に、当期純損失も繰越利益剰余金に振り替えます。純損失の場合は繰越利益剰余金は借方に記帳し、純資産を減少させます。
繰越利益剰余金から配当を出す
利益の一部を株主へ還元するのが配当金です。配当金は、一般的に繰越利益剰余金から拠出します。株主総会で、株主への1000万の配当が決まった際の仕訳は以下の通りです。なお資本準備金と利益準備金の合計が資本金の四分の一に達さないものと仮定します。
借方 | 貸方 |
繰越利益剰余金 11,000,000 | 未払配当金 10,000,000 利益準備金 1,000,000 |
配当金の10分の1は利益剰余金として積み立てるため、1000万円を配当する際には100万円を利益準備金として積み立てます。繰越利益剰余金の減少額は、合計で1100万円です。
配当金を実際に普通預金口座から支払った際には以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 |
未払配当金 10,000,000 | 普通預金 10,000,000 |
株主に配当金を配ることは義務ではないため、配当金がない際には上記の配当金にかかる仕訳は不要です。
繰越利益剰余金から積立金をつみたてる
修繕積立金や別途積立金などの任意積立金を積み立てる際には、繰越利益剰余金から積み立てます。別途積立金を50万円積み立てる際の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 |
繰越利益剰余金 500,000 | 別途積立金 500,000 |
他の任意積立金を積み立てる際にも、同様の仕訳を行います。
繰越利益剰余金がマイナスになった場合
蓄積していた利益がなくなり、貸借対照表の繰越利益剰余金がマイナスになってしまう場合には、赤字をてん補する場合があります。これを欠損てん補と言います。この場合、利益準備金を拠出して繰越利益剰余金のマイナスのてん補を行う場合があります。繰越利益剰余金がマイナス10万円になり、利益準備金からてん補する際の仕訳は以下の通りです。
借方 貸方 利益準備金 100,000 繰越利益剰余金 100,000 利益剰余金がマイナスの場合は赤字経営となるため、早急な事業の回復が必要になります。
欠損てん補と利益剰余金のマイナスとの関係についての詳細はこちら
繰越利益剰余金は簿記3級から出題される
繰越利益剰余金は、日商簿記検定3級から1級までの全試験の出題範囲に含まれています。簿記の学習をしている方は、繰越利益剰余金を正確に理解すれば高得点が狙えるかもしれません。利益剰余金との関係性や仕訳方法を把握したうえで、試験に臨んでみてください。
商工会議所簿記検定試験出題区分表
まとめ
本記事では、繰越利益剰余金について解説しました。繰越利益剰余金は、利益剰余金との違いや仕訳方法が複雑で理解が難しい勘定科目です。ただし、日商簿記検定の全試験の出題範囲に含まれているため、正確に理解すれば高得点が狙えるかもしれません。
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繰越利益剰余金に関してよくある質問
繰越利益剰余金とは?
繰越利益剰余金とは、過去の決算期において、会社があげた利益から配当金などを差し引いた後に残った利益の合計を指します。
繰越利益剰余金と利益剰余金の違いは?
繰越利益剰余金は利益剰余金の一部を構成します。連結貸借対照表においては、繰越利益剰余金という勘定科目は使用されず、利益剰余金のみが使用されます。
株主資本と純資産の違いは?
株主資本は純資産の一部を構成します。株主資本は純資産の内、株主に帰属する部分のことを意味します。