簿記1級は転職に有利なの?転職で活かす方法や年収なども紹介

1級は転職に有利の画像です

社会人の人気資格の一つである簿記試験。中でも1級試験は最も難易度が高く、合格すれば会計のスペシャリストを証明でき、社会的信用を得られます。そのため簿記1級取得すれば、転職で有利になるのか気になる人も多いのではないでしょうか?

本記事では、簿記1級試験の概要や主な転職先、年収などの情報をくわしく解説していきます。簿記1級取得後の転職を考えている人に向けて、知っておきたい情報をお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。

簿記1級について

簿記1級についての概要を説明している画像です。

簿記1級とは一般的に、日商簿記1級のことを指します。簿記試験には、日商簿記のほかに「全経簿記」「全商簿記」もあります。

はじめに簿記1級試験について、検定試験の種類や試験内容、合格率、難易度を確認していきましょう。

簿記検定試験とは

3種類の簿記検定試験(「日商簿記」「全経簿記」「全商簿記」)の違いは、下表のとおりです。

日商簿記全経簿記全商簿記
主催日本商工会議所全国経理教育協会全国商業高等学校協会
対象学生から社会人まで幅広い主に経理専門学校の学生主に商業高校の生徒
1級試験の難易度

全経簿記や全商簿記の対象は主に専門学校生や高校生ですが、日商簿記の対象は学生から社会人までとなっています。転職に有利になるのは日商簿記であるため、簿記1級を取得したいと思っている人は迷わず日商簿記合格を目指しましょう。

簿記1級

簿記1級の試験内容は、下表のとおりです。

商業簿記財務諸表や仕訳など、決算書を作成するための知識
会計学会計基準などの理論的な知識
工業簿記製造業で必要な簿記の知識
原価計算意思決定に必要な原価計算の知識

簿記1級の試験科目は、2級の範囲の商業簿記と工業簿記に加えて、会計学と原価計算が加わります。

試験科目ごとの配点・試験時間・合格基準は、下表のとおりです。

試験科目配点試験時間合格基準
商業簿記25点会計学と合わせて90分70%以上ただし、1科目ごとの得点は10点以上
会計学25点商業簿記と合わせて90分70%以上ただし、1科目ごとの得点は10点以上
工業簿記25点原価計算と合わせて90分70%以上ただし、1科目ごとの得点は10点以上
原価計算25点工業簿記と合わせて90分70%以上ただし、1科目ごとの得点は10点以上

試験は4科目で、配点は各25点。試験時間は商業簿記と会計学で90分、工業簿記と原価計算で90分の合計180分です。

簿記1・2・3級の合格率は下表のとおりです。

1級2級3級
合格率10%前後25%前後50%前後

2・3級と比較して1級の合格率は非常に低く、より難易度が高いことがわかります。

簿記1級は転職に有利なの?

1級は転職に有利の画像です

簿記1級取得者は、転職で有利になることは間違いありません。簿記1級試験の難しさから、転職市場においては非常に高く評価されます。たとえば、上場企業の経理部では高度な会計知識が求められますが、人材不足のため簿記1級取得者は選考時に優遇されます。

簿記1級では、さらに工業簿記や原価計算の知識も必要です。予算策定、経営分析、製造原価の決定など企業経営に関わる高度なスキルが身につけられます。そのため経理部門以外にも、財務部門や経営企画部門などの幅広い職種への転職も可能です。

また、専門的な知識を有しているだけでなく、合格まで多くの時間を割いて勉強した姿勢や努力も高く評価されるでしょう。ただし、中小企業などの経理部門では簿記1級レベルの知識は求められず、逆に採用に消極的になってしまうかもしれません。

従って転職時には、応募先企業がどのような人材を求めているかを、きちんと調べておく必要があります。

簿記1級を活かせる職種や業種

1級を活かせる職種の画像です

簿記1級取得者が活かせる職種や業種としては、以下のような候補が挙げられます。

  • 上場企業の経理
  • 財務部
  • 内部監査部
  • 経営企画部
  • 会計・税理士事務所
  • 中小監査法人
  • コンサルティングファーム

順番に解説していきます。

上場企業の経理

簿記1級が評価されるのは、上場している大手企業の経理部です。1級レベルであれば、高度な会計知識を証明できるため、大手の待遇の良い企業に転職できます。上場企業の経理部では、以下のような知識が必要です。

  • 財務会計
  • 管理会計
  • 工業簿記(製造業など)
  • 原価計算(製造業など)

簿記1級で習得する「商業簿記」「会計学」の知識は、財務会計や管理会計の分野で大いに活かされます。たとえば連結決算やキャッシュフロー計算書の作成など、1級レベルの分野が日常業務で行われているため、入社後は必要な基本知識はすでに身に付いているでしょう。

工業簿記や原価計算を行う業種は限られており、製造業などで携われます。

財務部

経理部と財務部はよく混同されがちですが、業務内容は全く違います。簡単に説明すると、経理部は過去の会計、財務部は未来の会計です。経理部は日々のお金の動きを記録していきますが、財務部は今後の会社のためにお金を管理していきます。

財務部は、たとえば次のような業務です。

  • 財務戦略の立案
  • 予算・資金管理
  • 資金調達
  • 資金運用

財務部の業務は、自社の現在の財務状況はどうなのか、今後どうあるべきなのかといったように決算書を読める1級レベルの知識が必須です。財務部は、今後の意思決定に大きく関わるため経営陣とも近い部署です。そのため、責任が重い分、やりがいも大きいでしょう。

内部監査部

内部監査部は、会計監査や業務監査を行い、報告や助言を行う部門です。その中でも会計監査では、財務諸表に虚偽記載などがないかを確認します。会計監査は、以下のような内容です。

  • BS・PLの確認
  • 売掛金・買掛金の残高確認
  • 現預金・借入金残高の確認
  • 帳簿組織・会計システムの確認
  • 伝票・証憑の確認
  • 引当金残高の確認
  • 固定資産の計上や除却の確認
  • 実地棚卸の確認

上記の項目を見ても明らかなように、会計監査では会計の知識が不可欠です。この点において、簿記1級の知識は大いに活かすことができるでしょう。

経営企画部

経営企画部の業務にも会計知識は不可欠です。財務数値の分析やIRでの決算開示など、経営企画部の業務は、会計と密接に結びついています。自社の財務諸表を理解できなければ、経営戦略を立てることはできません。財務数値を分析しながら、事業ごとの収益性分析などを行います。

また、ライバル会社である競合他社の財務諸表を分析することで、自社の強みや弱みを把握することも、経営企画部の重要な仕事です。IRは、自社の財政状況を外部の利害関係者へ報告する仕事です。

経理部が作成した決算書の数字を見て、外部へプレゼンテーションをする資料を作成します。このような点で、簿記1級の知識が必要です。

会計・税理士事務所

簿記1級取得者の転職先として、会計・税理士事務所も候補に挙がります。ただし、会計・税理士事務所の求人では、簿記1級の資格取得者を条件としている募集はほぼ見られないでしょう。

当然ながら、会計・税理士事務所への転職において評価されないことはありません。近年では、会計・税理士事務所において手作業で試算表を作成することはまずないです。

会計ソフトを利用するのが当たり前であり、簡単に仕訳を行えます。会計ソフトが行う基本的な仕訳が理解できれば、あとはソフトが試算表の作成を手助けしてくれます。

そのため、簿記1級ほどの高度な会計知識は、会計・税理士事務所で働くうえでは必須というわけではありません。会計・税理士事務所の求人は非常に多く、事務所によって仕事のやり方が大きく異なるので、どのような人材を求めているのかを確認することが必要です。

中小監査法人

中小監査法人で働くには公認会計士が中心ですが、公認会計士でなければ監査法人で勤務できないわけではありません。たとえば、簿記1級取得者が中小監査法人で働くには以下のような業務があります。

  • アドバイザリー業務
  • 公認会計士の補助

アドバイザリー業務

公認会計士の資格がなければ、会計監査を行うことはできませんが、監査法人は会計監査以外にアドバイザリー業務も行います。

アドバイザリー業務は、クライアントをサポートする仕事で公認会計士でなくても担当できますが、それでも幅広い専門知識が求められます。そのため簿記1級資格者は、アドバイザリー業務に活躍の場があるといえるでしょう。

公認会計士の補助

簿記1級資格者は、公認会計士の補助としても能力を発揮できます。会計監査は仕事量が幅広く、公認会計士だけでは業務負荷がかなり重くなります。そのため、公認会計士でなくても補助業務として監査と関連する業務を指示されることが多いです。

公認会計士の補助業務でも、決して簡単な業務ではなく難易度も高いので、簿記1級の知識は重宝されます。

コンサルティングファーム

コンサルティングファームも簿記1級を活かせる業種です。とくに、M&AやIPOの分野で重宝されます。M&Aのコンサルティングでは、企業の財務状況を分析することや、買収後の業績評価などが必要です。

またIPOのコンサルティングでは、株式公開に伴う財務関係の手続きや会計処理などが必要です。これらのコンサルティングにおいて、簿記1級の知識は、財務諸表や財務分析において役立ちます。

ただし、M&AもIPOも簿記1級の知識だけでは到底通用するものではありません。企業戦略、市場動向、競合分析、法務、人事など、多岐にわたる知識が必要です。簿記1級の知識は、コンサルティングファームで重宝されるものの、入社後も幅広い知識と経験を身に付けることが重要になります。

簿記1級取得者の年収は?

一般的には中小企業よりも、給与テーブルが高いのは大手企業です。国税庁「令和3年度民間給与実態統計調査」によれば、資本金10億円以上の株式会社の平均年収は616万円、資本金2,000万円未満株式会社は381万円となっています。

簿記1級を取得して大手企業の経理に転職できれば、年収を上げることも不可能ではありません。

参考:国税庁「令和3年度民間給与実態統計調査」https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2021/pdf/002.pdf

簿記1級を転職で活かす方法

1級を転職で活かす方法の画像です

簿記1級の資格は、取得することだけが目的ではありません。転職先で活躍してこそ、簿記1級の資格が活かされます。簿記1級を転職で活かす方法として、次の2つのポイントを紹介します。

  • 資格に頼りすぎない。
  • 福利厚生や資格が充実している会社を選ぶ。

資格に頼りすぎない

転職活動において難易度の高い簿記1級を取得していることは、もちろん高い評価を得られますが、それだけをアピールしすぎてはいけません。選考を通過するためには、実務経験が最も重視されます。

とくに大手企業にエントリーする場合は、応募者のレベルが高く簿記1級取得が決して珍しくない可能性もあります。これまでどんな業務を経験してきたか、それが応募先でどのように活かせるかについて、過去から未来に1本の線でつながるような内容にするといいでしょう。

転職は即戦力が求められるため、経験してきた業務についてしっかり伝えることができれば応募先側が見極めやすくなります。簿記1級の資格については、プラスアルファの情報として留める程度にしておくのが良いでしょう。

福利厚生や資格が充実している会社を選ぶ

福利厚生や資格支援などが充実している会社を選ぶことも重要なポイントです。大手企業になればなるほど、そのような待遇が良い企業が多くなります。社員の定着率を重視している会社は、ワークライフバランスを考え、福利厚生制度を充実させているケースが多いのが特徴です。

また、従業員の学ぶ意欲やモチベーションを重視している会社は、資格支援などに力を入れています。転職先を選ぶときは、自分にとって魅力に感じる点を調べておくことも大切なポイントです。

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まとめ

この記事では、簿記1級が転職に与える影響についてお伝えしてきました。簿記1級は難易度が高い資格ですが、取得すればキャリアの幅が広がり、人生設計を大きく変えることが可能です。

経理実務が未経験であっても、会計事務所や企業の経理部に転職できる可能性もあります。さらに、簿記1級の知識をステップにして、税理士や公認会計士にも挑戦できるでしょう。

興味を持った人は、ぜひ簿記1級にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

CPAラーニング編集部

ライターCPAラーニング編集部

ライターCPAラーニング編集部

簿記・会計をこよなく愛するCPAラーニングコラムの編集部です。簿記検定に合格するためのポイントや経理・会計の実務的なコラムまで皆様に役立つ情報を提供していきます。

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